変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

アルバイトでも年収550万円!?オーストラリアを経済危機から救った3つの秘訣Photo: Adobe Stock

最低賃金は時給2000円以上、
日曜日の時給は平日の2倍のオーストラリア

 東京都の最低賃金は時給1072円(2022年10月1日より)ですが、オーストラリアの最低賃金は時給21.38オーストラリアドル(2022年9月11日現在)で、日本円にすると2010円(1オーストラリアドル=94円として計算)です。また、土曜日の時給は平日の1.5倍、日曜日に至っては2倍の額が保証されている場合もあります。

 仮にアルバイトで平日3日間、週末に2日間、いずれも8時間ずつ働くとすると、年収は最低賃金でも550万円近くになることになります。もちろん、算定基礎となる為替レートや所得税率、物価水準などの影響があるので、日本との単純比較をするつもりはありません。

 資源国のオーストラリアは長らく後述のオランダ病に悩まされ、広大な国土を支えるインフラを構築できずにいました。それでも、オーストラリアは様々な施策によって、世界の幸福度ランキングにおいてアジア太平洋の中ではトップの12位に君臨し、62位の日本とは大きく水をあけています

 本日は、日本の労働生産性向上に向けて、オーストラリアから学べる点について考えてみましょう。遠いところからヒントを得るための「アナロジー思考」は、『アジャイル仕事術』でも解説している大切なスキルの一つです。

人口密度は日本の100分の1、
オランダ病で廃業に追い込まれた自動車産業

 オーストラリアの人口は2500万人、人口密度は3人/㎢で、日本の333人/㎢や米国の34人/㎢と比較してもはるかに低いことが分かります。都市別に見ても、シドニーが430人/㎢、メルボルンが453人/㎢、首都キャンベラが443人/㎢で、東京23区の1万5428人/㎢、シンガポールの8358人/㎢、ニューヨークの1万1000人/㎢を大きく下回っています。

 資源国として有名なオーストラリアの1人当たりGDPは5万7000USドルで、日本の3万9000USドルを大きく上回っていますが、自国経済は深刻なオランダ病に長らく悩まされていて、今後の経済発展のためにも産業の多角化が急務とされています。

 オランダ病とは、豊富な天然資源の輸出による貿易黒字が自国の通貨高を招き、労働者賃金の高止まりにより主に製造業が国際競争力を失うことを言います。実際、かつて主要産業だった自動車産業は2017年に終焉を迎えています。

 そうした中で、オーストラリアがどのように低人口密度での国家運営を実現しているのか、そして新産業の創出を実施しているのかについて解説したいと思います。

①低人口密度を支えるメリハリある投資・運営ポリシー

 人口密度が低い国に適さない産業はたくさんあります。例えば、携帯電話の基地局、電気自動車の充電設備、小売りチェーン、公共交通機関等は人口密度が低いと極端に投資効率が低くなります。オーストラリアでは、これらに関して無理な投資や運営はしないというポリシーを貫いています。

 例えば、国際空港から市街地まで電車が通っているのはシドニーとブリスベンのみで、それ以外の空港ではタクシーやバスを利用する必要があります。それ以外にも、多くのガソリンスタンドが無人だったり、小売店も客数が減る時間帯には閉店していたりします。

②低人口密度を支える技術

 オーストラリアでは低人口密度を支える技術が数多く開発されています。例えば、24時間空いているジム運営をサポートする技術や農業を自動化する技術等いろいろ挙げられますが、その中でも特に注目されているのがMyriotaというIoT技術を提供する企業です。同社は2015年に南オーストラリア大学からスピンオフしたベンチャー企業で、超小型衛星を利用した大規模、低価格かつ低消費電力の衛星通信ネットワークの構築を目指しており、その技術は風力発電所の監視から牧場の水タンクの監視まで、現在幅広い領域で利用されています。

 また、これまでに5000万オーストラリアドル以上の資金調達を実現しており、投資家にはシンガポールを本拠とするアジア最大級の通信会社シングテルが運営するベンチャーキャピタルのInnov8や、ボーイングのベンチャーキャピタルであるHorizonXも含まれています。

③新産業創出を支える連邦政府と州政府の役割

 オーストラリアで新産業を創出する上で注目すべきポイントは、連邦政府による産業ポートフォリオ管理と州政府による特定産業への集中です。各州の新産業を担うスタートアップは、ニューサウスウェールズ州のフィンテック、ビクトリア州のアグリ(農業)テックやヘルス(医療)テック、南オーストラリア州のクリーンテックやスペース(航空宇宙)テックのように、地域によって事業領域が分散しています。

 また、各州知事は注力する産業が最大限発展するための街づくりにも工夫をしています。例えば、南オーストラリア州ではインキュベーションハブとなっているStone & Chalkの所在地から南オーストラリア大学、アデレード大学、研究機関まで全て徒歩圏内に配置されています。②で紹介したMyriotaも、このような環境下で生まれた大学発スタートアップです。

 かつて日本では人口増が社会課題とされていた時代もありましたが、現在は少子高齢化による人口減少や地方都市の過疎化などが社会課題となっています。

 環境変化をリスクと捉えずに、アナロジー思考を身につけて、目の前の問題解決の参考となる事例を見つけてみましょう。教材は世界中に転がっています

アジャイル仕事術』では、アナロジー思考を身につけるための具体的な方法以外にも、答えのない時代にすばやく成果を出すための技術をたくさん紹介しています。ぜひご一読ください。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。