2022年の首都圏の中学受験者数は5万人以上で過去最高となり、受験競争の激化が続く。東京・吉祥寺を中心に都内に展開し、難関校への高い合格率を誇るVAMOS代表の富永雄輔氏は、クラス分けやテスト結果に一喜一憂するなどして親子関係が悪化している受験家庭が少なくないと語る。その状況に危機感を覚え、近年増えているひとりっ子を中心に、受験生のストレスを最小限に抑えて成功に導くノウハウを公開した新刊が『ひとりっ子の学力の伸ばし方』だ。
この連載では、受験勉強によって子どもの才能をぐんぐん伸ばし、精神的な成長をうながす家庭はどういう子育てをしているのか、富永氏に具体的に語ってもらった。今回は、受験で子どもの自己肯定感を下げないための親の心得についてお伝えする。(取材・構成/樺山美夏)
進学塾VAMOS代表
幼少期の10年間を、スペインのマドリッドで過ごす。京都大学経済学部を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生・浪人生まで通塾する「進学塾VAMOS(バモス)」を設立。現在吉祥寺、四谷、浜田山、お茶の水に校舎を構える。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年塾生を難関校に合格させ、その指導法は、「プレジデントファミリー」「アエラウィズキッズ」「日経キッズプラス」などでも取り上げられる。学習指導のみならず、さまざまな教育相談にも対応し、年間400人を超える保護者の受験コンサルティングを行っている。また各学校にも精通しており、中学校の紹介等をYouTubeで行なっている。自身の海外経験を活かして、帰国子女の教育アドバイスにも力を入れているほか、トップアスリートの語学指導、日本サッカー協会登録仲介人として若手選手の育成も手掛けている。著書に『ひとりっ子の学力の伸ばし方』など多数。
ルール(1) どんな小さな成長も言葉で褒めて伝える
――子育てにおける親の最大の役割は、「子どもに自信を持たせて自己肯定感を高めること」だと、富永さんの本を読んで改めて痛感しました。頭ではわかっているつもりでしたが、小さなことでも言葉で伝えないといけないな、と。
富永雄輔(以下、富永):子どもは日々成長しているので、「今までできなかったことができた」「今日は昨日よりできた」と思えることがたくさんあります。でも勉強は、できないことが多くなりがちで自信をなくしやすいんですね。
ですから、「難しい漢字が書けたね」とか、「できなかった計算ができるようになったね」とか、そんな小さなことでも、褒めてあげたほうが自信につながります。
もし中学受験をさせるなら、「10歳くらいまではひたすら褒めて、5年生の1学期までに自己肯定感を200%にしてください」と、私の塾でもよく保護者に言っています。「たとえテストが40点だったとしても、5年の春までは40点取ったことを褒めて絶対にけなさないでほしい」と。
なぜなら、5年の夏から急に難易度が上がって、優秀な子どもでも自信がマイナス100%ぐらい削がれてしまうこともあるからです。
本格的な受験勉強に入れば、テストも40点を褒めるのではなく、できなかった60点に注目しないといけなくなりますから。
――5年の夏からそんなに大変になるんですね。それでも残り100%の自己肯定感があれば大丈夫だと?
富永:そうです。受験に限らず、社会に出てからも、仕事ができなくて自信をなくしたり、上司から理不尽なことを言われて自己肯定感を削られることってありますよね。
そのとき心が折れないようにするためにも、子どものうちに自信と自己肯定感をできるだけ高めておいたほうがいいという考えです。
特にひとりっ子は、親が一方的に高い理想を押しつけて「なんでできないの?」となってしまいやすい。すると優秀な子どもでも「自分はダメだ」と思ってしまいます。偏差値60でも「偏差値70の人がいる」と落ち込むんです。
でも逆の見方をすれば、ひとりっ子は兄や姉と比較されることがないので、理想を押しつけずできたことを褒めて認めてあげると、「自分はこれでいいんだ!」と思えて自己肯定感がぐんぐん高まります。
メンタル的に強いのはもちろん後者ですから、親はそちらのパターンで子どもを褒めまくってほしいですね。
――ひとりっ子の親は、なぜ高い理想を押しつける傾向が強いのでしょうか?
富永:ひとりっ子だと教育費をかけることができるので、塾や習いごとはもちろん、オプションで家庭教師や個別指導をプラスするなど、いろんなことをやらせている家庭が目立ちます。
親が勉強を見てあげる時間もとれるので、お金と時間をかけたぶん、期待も高まるのでしょう。でもそれは親の勝手ですよね。
だから私は、ひとりっ子に限らず、子どもに高い理想を押しつけている親から相談を受けると、「子どもがテストで取り組んだ問題を、解答解説を見ないで時間も計って、同じ条件で自分でも解いてみてください」とよく言っています。
大人でも手こずる問題がたくさんあるので、子どもの大変さがわかるんですね。そうすると、子どもの気持ちに寄り添ってくれる親が多いので、これはいい方法だなと思ってよくおすすめしているんです。