売り手と買い手の双方ともに「人」が大切

 プレPMIとPMIは、売買双方のスタッフが参加して行うものです。買い手がある程度主導するとはいえ、売り手の意向、希望やカルチャーも尊重しなければ、統合はうまく運びません。

 一つの理想的な姿としては、先に述べたPMOを設け、双方のキーパーソンを配置することです。買い手からは将来の買い手企業の社長候補、また売り手からは新会社の社長に就任予定の人物、つまりは幹部または幹部候補がリーダーとなるイメージです。

 それぞれの会社の実情や課題をよく知るうえに、マネジメントの実績もある人物同士が橋渡しになることで、「雇用は守られるか」「活躍の場はあるか」といった対象会社の社員の不安だけでなく、「人数が増えることで自分のポジションに影響を及ぼすのでは」といった買い手の社員の心配も緩和することができるでしょう。

 実際に、対象会社のとある部門長が「ポジションを失うのではないか」という危惧からPMIに非協力的な姿勢を取り続け、統合作業が滞ったことも経験しました。こうした売買双方の対立やいがみ合い、疑心暗鬼を避ける意味でも、できるだけ早期に、「新会社の魅力や成長ストーリー」「先送りされている課題への対処」といった明るい話題を両社の社員に語りかける場づくりが大切になります。

 年間に3件以上のM&Aを行う会社であれば、知見の蓄積や業務効率化のために、社内に専門のPMI部門を設けたほうがよいと思います。また、難易度の高い案件、例えば異業種企業の買収や海外の会社を買うクロスボーダーM&Aでは、対象の業種や国柄等の事情に詳しい外部専門家の利用を検討すべきです。

 過去に国内同業種の買収で成功体験があったとしても、それがどの案件でも当てはまるとは限りません。シナジーの検討や企業カルチャーの違いの克服等のために、外部専門家を交えて、一歩引いた冷静な視点で統合方式を練り実行するほうが統合の効果はあがるでしょう。

 なお、図に示したように、約半年で統合作業を終え、以降は通常の子会社管理に移っていくことが望ましいです。オンディールのDD、プレPMIからの一気通貫体制づくりを意識しつつ、PMIに要する期間や人材、費用等のリソースをあらかじめ見繕っておく必要があるでしょう。