100近い候補から決まったタイトル
――『すばらしい人体』という書名タイトルはどのように決まったのですか?
田畑 「本のコンセプト」を明確に表現しながら、コピーとしての強さみたいなものも必要なので、毎回、本当に迷います。
『すばらしい人体』という書名については、「人体の本として手に取ってもらうこと」を目指していたので、「人体」というキーワードを使うことに、迷いはありませんでした。
そのうえで、「人体の精巧な仕組み」「人体の素晴らしさ」「人体の凄さ」「人体の面白さ」を表現できる言葉は何か…。
「人体」という言葉に何を組み合わせるか、100パターン近く考えて、最終的に「すばらしい人体」として、著者の山本さんにも快諾していただきました。
――「すばらしい」が漢字でなくひらがななのも、こだわりが感じられます。
田畑 オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』というSF小説の影響もあります。ひらがな5文字の「すばらしい」という文字列の軽やかさが美しいと以前から思っていて、いつか書名に使用してみたいと考えていました。「すばらしい新世界」自体は、タイトルにアイロニーを込めた「ディストピア小説」なのですが。
サブタイトルの「あなたの体をめぐる知的冒険」は、「ミクロの決死圏」というSF映画からイメージしています。作家アイザック・アシモフによって小説にもなっていますが、「未来の技術によって、ミクロサイズになった科学者たちが、ある使命を担って人体を冒険する」という話です。
「人体を冒険する」という世界観がとても好きで、読者にもある種の知の探索を味わってもらえればという意図を込めています。
――まさに「冒険」ですね。
田畑 SFは奥が深すぎるジャンルなので、私はまったく詳しいわけではないのですが、「ぼんやりとしたSF好き」であることが、本書の書名とサブタイトルに影響しているかもしれません。
書名についての細かい意図は、企画会議でも説明することもなく、誰に話したりするわけでもないのですが、どの本も「読者層が広がるタイトルにしたい」という思いやコピーの技術みたいなこととは別に、自身のこれまでの読書体験から生まれてきた「こういう世界観を表現したい」「この言葉を使いたい」「こういう佇まいの本にしたい」という自分の妄想みたいなものが根本にあることを大切にしたいと思っています。
(後編につづく)