世界に広がる専制主義に対抗する力が牽制民主主義

――牽制民主主義が登場する一方で、専制主義も力を増しているように感じます。

岩本 確かに牽制民主主義が発展する一方で、中国を筆頭とした新しい専制主義国家の台頭も今の時代の特徴といえます。著者は、ロシアやトルコ、ハンガリーなどはトップダウンの政治構造を持ち、これまでになかった手法で国民の忠誠心を操っていると指摘しています。毎日ニュースで流れるロシアの振る舞いを見ていれば、それは明らかなことでしょう。

――近年登場している専制主義的指導者たちは、どうやって民衆の心を掴んでいるのでしょう。

岩本 現在の専制主義国家は暴力や力による支配というよりも、巧妙に国民の心理を操作して、自発的に服従させる術に長けているといいます。そういう意味では、より厄介な存在といえるかもしれません。

 例えば、アメリカのトランプ前大統領のことを「SNSによって生まれた大統領」と評価する専門家もいるほど、トランプ現象とSNSは密接に関連しています。SNSは確かに民衆を扇動しやすいツールでしょう。しかし、だからといってSNSに問題があるわけではない。テクノロジーには、プラスの面もあればマイナスの面もあるものです。トランプ前大統領の例は、その前提を理解した上で付き合う必要がある、と警鐘を鳴らしたといえます。

――こうした専制主義台頭の背景にはいったい何があるのでしょうか。

岩本 変化の激しい時代だからこそ、決断までに時間のかかる民主主義よりも、トップが即断即決できる専制主義の方が有利だと主張されているのです。例えば、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した当初、合議的に方針を決定する欧米と、トップダウンで方針を打ち出す中国との対応には大きな差が出ました。混沌とした時代には、スピード感を持った強力なリーダーシップが求められやすいのです。

 先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです。