「マイペースは最大の強み」世代間で深まる考え方のズレPhoto: Adobe Stock

生まれ順によるきょうだいの性格の違いを分析したベストセラー『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』著者の五百田達成さんと、東京・吉祥寺を中心に都内に展開する進学塾VAMOS代表であり、『ひとりっ子の学力の伸ばし方』著者の富永雄輔さんは、「世の中全体がひとりっ子化している」と口をそろえる。背景にある「教育現場」「世の中で求められる人物像」の変化について語ってもらった。

わが子の“マイペースぶり”に困惑する親の声

ーーお二人とも著書の中で、家族構成がパーソナリティの形成に大きな影響を与えていると指摘されています。増加の一途をたどる「ひとりっ子家庭」の特徴については、どのように考えていますか?

五百田達成(以下、五百田)『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』という本を書いた際に、きょうだいや生まれ順による性格の分析を行うために、さまざまな人に取材をしました。

 私自身は末っ子なんですが、ひとりっ子ときょうだいがいる人とでは、性格や考え方には、はっきりとした違いが見られて本当に驚いたんです。

「マイペースは最大の強み」世代間で深まる考え方のズレ『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』五百田達成・著、ディスカヴァー刊

 また、たくさんの人から話を聞く中で、ひとりっ子家庭が増えているということを実感したのですが、ひとりっ子家庭は、今どれくらいの割合になっているんですか?

富永雄輔(以下、富永):子どもがいる家庭のうち、約20%がひとりっ子家庭と言われていて、特に私が都内で進学塾を運営しながら感じるのは、この20%のひとりっ子家庭の中でも、塾に通っているひとりっ子は非常に多いということなんです。

五百田:たしかに、私も都内で子育てをしている友人がいて、彼らから話を聞くかぎりでは、ひとりっ子の親ほど「この子の子育てに失敗できない!」というプレッシャーが大きいのか、教育にはお金を惜しまない傾向がある気がします。

 きょうだいがいないぶん、ひとりっ子の教育にお金をかけることができるということでしょうね。塾に通うひとりっ子が多いというのも、納得できます。

富永五百田さんの本の中でも、ひとりっ子特有のマイペースな性格を分析していますが、私は塾の現場でもそれを感じています。

 実は、塾に来るひとりっ子の親御さんから、「マイペースなうちの子に、もう少し競争心を持って勉強に取り組んでほしい」と相談されることは頻繁にあるんですが、教育への投資を惜しまないひとりっ子の親が、送り迎えから何から何まで面倒を見ていれば、そういった家庭環境のなかで、子どもに競争心を持たせるのは、難しい気がします。

 一方で、必ずしも競争心を持たせて勉強させることが、ひとりっ子や、今の子どもたちに合っているやり方だとは思えないところがあって、『ひとりっ子の学力の伸ばし方』という本を出そうと思ったんです。

親世代と子ども世代「価値観のズレ」

五百田:中学受験をする家庭は、そもそも比較的裕福な家庭が多いと思うのですが、そのような親たちは、学生時代や社会人生活の中で、いわゆる競争社会を生き抜いてきた経験から、競争意識こそがモチベーションの源泉だと考える傾向にあるんじゃないでしょうか。

 私自身も、いわゆる根性論みたいなものが、当たり前だった頃に育った世代の人間だから、そういった価値観がどこか根付いているところがあるんですが、競争を押し付けることは今の時代の空気感にそぐわないように感じます。

 私たち大人の世代も頭ではわかっているはずですが、気持ちはまだ抜けてないというか。子どもを塾に通わせられる経済的余裕がある親は、自分自身が競争に勝ち残ってきたからこそ、自分が今恵まれた環境を手にしているって自覚があると思うんです。競争に勝ってきた親ほど、自分たちの成功体験の源が競争にあると思っているはずでしょう。

「マイペースは最大の強み」世代間で深まる考え方のズレ五百田達成(いおた・たつなり)
作家・心理カウンセラー。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。
東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て、五百田達成事務所を設立。個人カウンセリング、セミナー、講演、執筆など、多岐にわたって活躍中。専門分野は「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。「あさイチ」(NHK)「スッキリ」(日本テレビ)、「この差って何ですか?」(TBS)ほか、テレビ・雑誌などのメディア出演も多数。最新刊『部下 後輩 年下との話し方』のほか、『察しない男 説明しない女』『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』『話し方で損する人 得する人』『超雑談力』『不機嫌な妻 無関心な夫』(以上、ディスカヴァー)はシリーズ100万部を超えている。