沖縄復帰50年に向けた共創の道を探る

廣瀬 下向さんは、日々学校を訪れていてどのような課題を感じていますか。

下向 現在、高校には「総合的な探究の時間」という科目があります。私たちは、高校生が探究を深められるようサポートする立場として多くの高校に参画しています。とある沖縄県の高校の生徒が、自分が探究したいテーマを「平和とは?」に設定していました。大きいテーマですし、掘り下げ方も難しいのではないかと思い、私は「どうして平和をテーマにしたの?」と尋ねました。

 すると、「ぶっちゃけ、僕ら米軍基地の中に入ってみたいんですよね」とコソコソと言うんです。「どうしてそう思ったの?」と掘り下げると、「コロナ禍で海外に行けないけれど、僕たちのすぐ近くにはアメリカがある。それなのにその文化を体験できないのは損している気がする」「基地の中にいる人たちに、沖縄や沖縄の歴史についてどう思っているのか聞いてみたい」というんです。めちゃくちゃおもしろい視点じゃないですか! でも、最後には「こんなこと書いたら叱られますよね」と引っ込めてしまったんです。これまでの学校生活で「こうあらねばならない」という型を作ってきていて、自信を持って自分の関心をアウトプットすることができないのだな、と感じました。安心して自分の関心を話せる機会こそが、学びの場には必要だと痛感したんです。

廣瀬 「ここならば自分を出して大丈夫だ」という環境をつくっていくことは非常に大事ですよね。僕は試合前日には、チームメイトみんなでスパイクを磨く時間を設けていました。最初は、「なんでみんなで磨く必要が?」という声もありましたが、こうした取り組みを重ねることで、なんでも話せるような雰囲気ができていきました。また、他愛もない話が、翌日の試合の本質的な内容につながっていくこともありました。緊張感をほぐしたりチームメイト間で話しかけるハードルを下げたりする効果もあったと思います。

 高校生たちは、「学校だからちゃんとしたことを言わなければいけない」と思っているかもしれませんが、こうした気軽な会話ができる場づくりからスタートして、本質的な内容に入っていけるとよいのかもしれませんね。

廣瀬俊朗さん

下向 まさに気軽なことから始めていきたいですよね。学校現場にいると、自分に自信がなかったり思っていることを素直に表現できなかったりする子がとても多いと感じます。その背景には、学校でも家庭でも自己肯定感や自己有用感を持つ機会がほとんどなかったということがあります。学校で安心できる環境を作り、自身の興味関心に向けて挑戦する機会をなんとか設けられないか、と試行錯誤しています。

廣瀬 ぜひ、沖縄の高校生の関心を深める機会を作っていきましょう! 先日、米軍基地にラグビーチームがあることを知ったんです。まだまだ思いつきの段階ですが、そうしたチームと交流する方法もあるのではないかと思ったんです。正面向かって、「沖縄の歴史のことについて、あなたたちどう思っているの?」と聞くのはハードルが高いですし、むこうも構えてしまうかもしれない。しかし、一緒にスポーツをして、そこでチームや仲間になった状態であれば、本音で対話をしやすくなるのではないでしょうか。

 2031年のラグビーワールドカップの開催地はアメリカになったんです。ワールドカップに向けて、日米の交流をスタートさせる。これは沖縄にしかできない取り組みだと思います。スポーツは人と人との触れ合いを増やしていく触媒です。ラグビーを通じて相互理解のきっかけを作っていくことは僕のしたいことの一つでもあるんです。