「なんかええ感じ」の雰囲気を作る方法とは?

下向 私も“なんかええ感じ”の学校をどんどん作っていきたいと思っているんです。例えば、今年私たちが関わって3年目の学校があるのですが、どんどんよい雰囲気になっていったんです。「ありがとうポスター」というのを作って、子どもたちの「(コロナ禍において)行事ができなくて悲しい」という思いを汲み取り、「みんな学校行事を我慢してくれてありがとう」といったメッセージを発信していきました。他にも、校長先生や教頭先生が意識的に休み時間などに校舎を回り、生徒たちと雑談をするようにしました。そうすると、不登校が劇的に減少し、生徒全体の成績も向上したんです。

 私は、こうした“なんかええ感じ”の学校やクラスを全国にどんどん増やしていきたいと思っています。廣瀬さんはチームの雰囲気をどうコントロールしていったのですか?

廣瀬 一つミーティングをするにしても、環境整備には気を使いました。話しやすい雰囲気を大事にしたいときは、コーヒーを片手に持っていったり。服装でコントロールすることもありましたね。例えば、サンダルで行くのとかっちりした格好で行くのとでは、与える印象が全く異なるはずです。固かったりどんよりしていたりしたら、わざとおどけたコメントをすることもあります。

 雰囲気については、言葉で感じる人もいるし、表情で感じる人もいるし、服装で感じる人もいる。だから全体を見渡してコーディネートしていました。

下向 まさに、小さいことの繰り返しですよね。廣瀬さんも書籍に書いていらっしゃいましたが、「おはよう」というのではなく「下向さん、おはよう」と名前をつけて挨拶をするといった小さな配慮で関係性は変わっていくと思います。

下向依梨さん

廣瀬 僕が日本代表の時のエディー・ジョーンズ監督は、選手一人一人にとても丁寧に声をかけていました。朝食会場に絶対に一番に着いていて、入口に立っているんです。それで、「おはよう、廣瀬。体調どう?」と声をかける。僕、体がすごく硬いから、当時「東芝ロボット」ってあだ名をつけられていたんですよ(笑)だから、「東芝ロボット、昨日眠れた?」とか言われることもありました。

 こうした毎日を過ごしていると、選手たちは「エディーさん、今日も僕のこと気にしてくれているんだな」と信頼感を抱くようになります。また、エディーさんも選手の様子を見ているんですよね。もちろん体重などのフィジカルチェックは定量的に管理されているのですが、そこにあらわれない定性的なコンディションを把握していくんです。朝のやりとりも踏まえて、「この選手は、今日これぐらいの練習量にしよう」とエディーさんは決めていました。だから、人によって毎日トレーニングのボリュームが異なるんです。

下向 すばらしいですね! 私もそんな教育者になりたいです。できるだけ一人ひとりの名前を呼んで、「あのプロジェクトどうなった? おもしろいことあった?」と話しかけながらできるような場を大切にしていきたいですね。

 また、そういった姿勢が教育現場にも広がっていってほしいと思いました。子どもたちが「自分はケアされている」「気にかけてもらっている」と感じることで、安心感の醸成につながっていくはずです。安心感が土台にある学びの場だからこそ、自分の感情に目がいき、さらけ出していこうと思うことができる。こうした環境づくりを一つ一つ行っていくことが、子どもたちの関心を伸ばし、学びの楽しさを深めていくことにつながっていくのではないでしょうか。