次の世代に
中村俊輔が遺したもの
一方でいま現在の日本サッカー界を見わたせば「失敗した時こそ、上を向け」や「夢ある限り、道は開ける」を愚直に実践し続け、前人未到の偉業を成し遂げたかわいい後輩がいる。
刺激を受けた年上の選手や後輩を尋ねられた俊輔は、後者に関して「うーん」とちょっとだけ間を置いた上で、DF長友佑都(FC東京)の名前を挙げた。おりしもGK川島永嗣(ストラスブール)とともに、日本人選手初の4大会連続でW杯代表に選出されたばかりだった。
「最初は大学生で太鼓をたたいていたのに、強化指定でFC東京、そしてイタリアに行ってインテル。ビッグクラブに行く階段というか、年数に対する成長の仕方にすごく興味があって、それについてよく話しました。彼の向上意欲や、私生活を含めたサッカーに対する姿勢には学ぶことが本当にたくさんあった。代表の時にもすごく僕に話を聞いてきたのが彼でした。海外はどうですかとか、どのタイミングで言葉をしゃべれた方がいいですかとか。彼のことは尊敬できますね」
太鼓たたきとは、ヘルニアを患ってプレーができなかった明治大学時代に、何でもいいからサッカー部の力になりたいと一念発起した長友が、試合の応援で太鼓を担当。抜群のリズム感に魅了された鹿島アントラーズのサポーターから、太鼓番として勧誘されたエピソードを指している。
一転して3年生に進級する直前の07年3月に行われた、FC東京との練習試合で長友が演じたプレーが見初められ、明治大サッカー部に籍を置いたままJリーグの試合に出場できるJFA・Jリーグ特別指定選手として登録。翌年にはサッカー部を退部して、プロの道を歩み始めた。
翌10年6月には俊輔も代表に名を連ねたW杯南アフリカ大会で、相手のエースキラーとして八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍を演じる。大会終了後にセリエAのチェゼーナへ移籍したかと思えば、半年後の11年1月末には世界的なビッグクラブのインテル・ミラノへ移籍。しかも7年間在籍した。
痛快無比なサクセスストーリーが俊輔に大いなる興味を抱かせた長友と、実は11月上旬に食事をともにしている。自身のインスタグラム(@yutonagatomo55)を更新した長友が、俊輔と一緒に写っている写真を投稿。俊輔をねぎらいながらこんなコメントをつづった。
「プロになったばかりの頃、プロとはどうあるべきかを俊さんの言動から学びました。僕のプロとしての常識は中村俊輔によって創られたと言っても過言ではないほど影響を受けました。僕の人生の財産となっています。本当にありがとうございました!」
実は食事にはもう一人、参加者がいた。FC東京のルーキーで、今シーズンのリーグ戦で31試合に出場したMF松木玖生(青森山田高卒)の様子も、長友のインスタグラムでつづられている。
「未来溢れる19歳松木玖生も俊さんの優しさと生き様を感じていました。俊さんからフリーキックの蹴り方の話しを聞いている時は一層目を輝かせていました。僕は全く理解できませんでしたが」
松木も俊輔と同じくレフティーで、FC東京ではルーキーながら直接FKを任される場面も多かった。直接FKからJ1歴代最多の24ゴールを決めている俊輔から、匠の技が伝授されたというべきか。松木も自身のインスタグラム(@kuryu.matsuki27)を更新し、こんな言葉をつづっている。
「お会いするのは初めてでしたが色々な事を佑都さんと俊輔さんに教わることができ、最高な時間を過ごすことが出来ました!自分も日本を背負って行けるような選手になります!」
W杯に2度出場した俊輔から、カタールでの戦いを間近に控える長友、そして実力と可能性を備えたホープの松木へ。過去から現在、そして未来が「失敗した時こそ、上を向け」や「夢ある限り、道は開ける」という言葉を介して、太く、真っ直ぐな一つの線でつながりつつある。
食事の席が設けられたのは11月3日。トレーニングパートナーの一人として松木が決まった翌日だった。こうしたタイミングもあって、長友はかわいい後輩でもある松木を誘い、俊輔と対面させたのだろう。20日に開幕するカタールW杯へ、俊輔は会見でこんなエールを送っている。
「僕らの前の先輩たちがW杯へ行けなかったり、カズさんのドーハ(の悲劇)だったり、そういうのを見ながら次の世代、日本のために頑張ってもらえればと思います」
すべてをやり切った、という万感の思いを抱きながら俊輔はスパイクを脱いだ。それでも、日本代表をめぐるサッカー界の物語は現在進行形で続く。W杯に手が届かなかった先輩たちから俊輔が託された魂のバトンは、長友ら森保ジャパンのメンバーを介して、次の世代へと引き継がれていく。
最後から5~6段落目の以下の内容を削除
※スペイン遠征中のU-19日本代表メンバーのうち10人が、カタールに滞在する日本代表のトレーニングパートナーを務める予定だったが、選手4人に新型コロナウイルスの陽性反応が確認され、遠征中の感染対策として合流しないことになったと21日深夜(日本時間)に日本サッカー協会から発表があったため
・最後から5~6段落目の内容
カタール入り後の日本代表の練習で、髪の毛を派手な金色に染めた長友がフィールドプレーヤーでは最年長ながら、チームの盛り上げ役も担っている姿がさまざまなメディアで報じられている。そして、運命に導かれたかのように、松木もW杯開幕直後にカタール入りする。
松木も名を連ねるU-19日本代表がスペイン遠征を行い、終了後の22日にその中の10人が森保ジャパンのトレーニングパートナーとして帯同する。前回ロシア大会からアンダーカテゴリーのホープをW杯に帯同させる試みがスタートし、4年前のトレーニングパートナーからMF久保建英(レアル・ソシエダ)とDF伊藤洋輝(シュツットガルト)がカタールW杯のメンバー入りを果たしている。
(2022年11月22日 7:54 ダイヤモンド編集部)