メリット1「従業員の成長」

 1つ目は「従業員の成長」です。

 その会社で働くことで自らが成長し、「成長している実感」を持つことのできれば、それをメリットだと認識できます。

 そして、従業員1人1人が成長することは、企業にとってもメリットです。

 つまり、「従業員の成長」は「利益相反が起きないメリット」であり、会社が与え続けることが可能なのです。

 ただし、前回の記事で述べたように、成長の「定義」について、会社と従業員がお互いに同じように認識していることは必要です。

メリット2「会社そのものの成長」

 2つ目のメリットは「会社そのものの成長」です。

「会社そのものの成長」とは、社会における存在意義が高まっている状態のことです。

 これは一見、従業員にとってはメリットでないように思うかもしれません。

 しかし、「社会にとって必要な会社の一員になれている」ということを個人が感じることは、明らかなメリットです。

「あの○○で働いているんだ」という自尊心にもつながりますし、社会とのつながりも感じられるからです。

 そして、当然、「会社そのものの成長」は「利益相反」が起きません。

「企業を選ぶ意識」を持とう

 ということで、企業が従業員に「選ばれる存在」になるには、以上の2つのメリットを与えることです。

 企業は、「従業員が成長を実感できる環境」を用意し、その成長を会社の成長に繋げて、会社そのものが社会にとっての存在意義を高めていく……。

 まさに、「人的資本経営で実現しようとしていること」ができれば、その企業は働く人たちから「選ばれる」存在になり続けられるのです。

 この順番を誤解して、従業員から選ばれるために、「利益相反」が起きるような小手先のメリットを提示してしまうと、継続性や一貫性がなくなり、個人や会社の成長に繋がらず、最終的には会社に居続ける「メリット」を減少させることになってしまいます。

 前述の「伊藤レポート」にはあまり触れられていませんが、私の問題意識はむしろ、「企業から選ばれる存在である」ということへの認識が薄いほうだと考えています。その点について、次回解説します。

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2022年7月現在で、約3000社以上の導入実績があり、注目を集めている。主な著書に、シリーズ60万部を突破した『数値化の鬼』『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)がある。