日本企業の交渉・取引コストは非常に高い
米国企業の場合、企業間関係は市場取引が中心なので、無理な要求に対しては市場価格が上昇する。それゆえ、無理な要求をしていることが、すぐに理解される。
ところが、日本の場合、市場価格ではなく、密接な組織的な企業間関係のもとに、人間が努力して対応することになる。要求を拒否したり、納期を遅らせたりすれば、関係各社に迷惑をかけ、面倒なことになる。したがって、そのような交渉・取引コストは非常に高い。
このような取引コストを節約するために、従来、神戸製鋼所は部材が納入先との契約内容と多少異なっていたとしても、それが部材として使用できるならば、納入先の了承を得て出荷していたといわれている。そして、このような行為は「特別採用」を略して「トクサイ」と呼ばれ、ある種のアウトレットのようなものとして扱われていたのである。
ところが、やがて納入先からの要求がさらに厳しくなり、とくに納期を守るように厳しく求められるようになった。というのも、顧客である製造業者は効率性を高めるために過剰在庫を避け、部材一つの納期が遅れても生産工程がストップしてしまうほど無駄のない生産システムを構築するようになったからである。
それは、近年、中国企業が急速に成長し発展してきたために、日本企業が危機感を抱き始めていたからだった。したがって、神戸製鋼所は多少無理な注文であっても、応じざるをえなくなっていたといえる。
こうした厳しい環境のもとに、高い交渉・取引コストを節約するため、神戸製鋼所は「トクサイ」ではなく、納入先の了承を得ることなく、契約内容に合うように数値を改ざんしたように思える。