取引コストを節約するために不正を行う
菊澤研宗 著
定価1155円
つまり、人間関係上の取引コストを節約するために、あえて不正を行うという不条理に陥ったように思われる。不正と知りつつあえて行う合理的行為、やましき沈黙、まさに「黒い空気」に支配されて改ざんが行われたのであろう。
しかも、このような合理的不正は、上層部の明確な指示や命令のもとで行われたものではない。現場のリーダーが、与えられた状況のもとで損得計算し、その結果、データ改ざんという不正を行った方が合理的という点で、現場のメンバーたちの計算と一致したのであろう。こうして、現場では不条理な「黒い空気」に支配されて、合理的に改ざん作業が遂行されたのではないかと思われる。
そして、その後、この改ざん行為は、ルーティン化されていくことになる。なぜか。新たに配属された現場のリーダーがそのルーティンが不正だと気づいたとしても、それが伝統的に実行されてきたものならば、それを変更するための取引コストは非常に高いだろう。というのも、変更するためには、多くの人々を説得して動いてもらう必要があるからである。こうして、不正は合理的に継続されることになる。
このような不条理な「黒い空気」に支配され合理的に失敗した日本企業は、おそらく神戸製鋼所だけではないだろう。免震ゴムの性能データ偽装を行なった東洋ゴム工業でも、同じことが起こっていたのではないか。そして、他にも同じような不条理な「黒い空気」に悩んでいる日本企業は、多いのではないかと思われる。