海外では「日本人は世界一スマホ好き」と揶揄されている
――私も子どもがいるので、「日本小中学生7万人を5年間追跡した調査では、スマホの使用時間に応じて学力が低下した」と知ったときは青ざめました。海外では「日本人は世界一スマホ好き」と揶揄されていることも、はじめて知りました。
四角 そうなんですよ。日本を訪れた海外の友人たちが驚くのは、電車・カフェ・街角どこにいてもスマホを見ている日本人の異様な姿です。欧米にはインターネット依存症のリハビリ施設が増えていて、日本にも出てきているようなので、今後ますます事態は深刻化していくでしょうね。
――とはいえ、デジタルデバイスがなければどこでも自由に働ける生活はできないので、完全に断ち切るわけにもいかず、バランスが難しいですね。
四角 僕は仕事のDX化がかなり早くて、まだスマホが一般的になる前の1990年代からガジェットオタクでした。デジタルツールを駆使すればどこでも効率的に仕事できるし、著しい時短が可能だったからです。まだクラウドがなかった時代に、パソコンと電子手帳を自分でソフトを入れて同期させたり、最初は全然使いものにならなかったiPhoneも、誰よりも使いこなしていました。
――すごいですね。
四角 同じ発想で働いていた実業家の本田直之さんと出会って交流を深めるようになったのは、iPhoneが登場した頃です。共に、モバイルテクノロジーを使い倒して世界中どこでも仕事できる、ノマドの先駆者のように言われるようになりました。でも、スマホをみんなが使うようになって、SNSやチャット、必要以上のアプリが増えてくると、過剰な情報が飛び交うようになり、時短どころか余計にインターネットに時間を奪われるようになっていったんですね。
――アプリやツール、無限大に増えていますからね。
四角 そのせいで、デジタル情報の洪水からなかなか抜け出せませんでした。同時期に、雑誌や新聞連載、会社役員などの仕事も急増して、世界中を旅しながらマルチに働くスタイルが過激化していきました。それは刺激的だったのですが、大切なことに集中できない焦燥感、温室効果ガスを出しまくる移動生活への罪悪感が強まっていきました。
そもそも2010年に会社を辞めてニュージーランドに移住したのは、自然の中でシンプルでサステナブルに生きるためだったのに、気がつけば真逆の生活をしていたんですね。その自己矛盾の重荷を解消すべく、再びリセットしたのがコロナ禍前の2019年で、移動生活を中断し、すべての仕事を手放して本書の執筆だけに専念しました。本で紹介した「デジタル情報とアプリの軽量化術」も、その頃から実践してきたものが多いですね。
通知オフとメルマガ解除とツール一本化をデフォルトに
――そのノウハウは本書を読んでよくわかりましたが、四角さんは最初、何から断ち切ったのでしょうか?
四角 まず、登録していたメルマガやPRメールをすべて解除して、全デバイスの通知をすべてオフにしました。必要な情報があるときは自分で取りにいき、一方的に押し付けられる情報を遮断しました。通知オンにしているのは、日本の家族との連絡用IPアプリ「SMARTalk」と、妻やスタッフとの緊急連絡用メッセージアプリ「Signal」だけです。
SNSも「発信」と「検索による情報収集」の2つの用途に限定して、タイムラインを見続けることは一切しません。タイムラインこそが、ドーパミンを支配する最悪の脳ハッキングを仕掛けてきますから。メディアからの情報収集も本に書いた通り、ファクトチェックが厳しいニュースメディアと専門メディアを数種類だけ選んでいて、報道機関ではないポータルサイトの玉石混淆の情報は見ません。
人とコミュニケーションするツールも、最小限にしています。電話、メール、LINE、メッセンジャー、Slackなどいくつも使っていると混乱して、履歴検索ややりとりに手間がかかりますよね。チャットもやはりドーパミンを放出させるので、仕事のやりとりはメールに一本化したところです。
――確かに、メールは比較的冷静にやりとりできます。ただ、同じ案件についていちいちメールを分けて送られてくると、履歴検索に時間がかかってすごく不便ですよね。案件ごとに1つのメールで完結できれば問題ないのですが。
四角 おっしゃる通りで、スレッドの概念でメールを使ったほうが効率的です。同じ案件で件名を分けるとしても、企画なら企画、宣伝なら宣伝とテーマ別でまとめたほうが便利です。と言いながら、僕もたまにスレッドを間違えてメールしてしまいますが(笑)。
おもしろいのは、Slackみたいなチャットツールが出てきてからメールの作法が変わってきたことです。ウクライナのベンチャーが開発した「Spark」というメールアプリは、スレッドの概念を反映した便利なツールなので、僕のチームは全員「Spark」を使っています。
最強アプリはAppleのメモとGoogleカレンダー
――さすがですね。メモアプリはApple純正のメモアプリ、スケジュール管理はGoogleカレンダーと同期した「Moca」だけに一本化したとあって、シンプルなアプリが結局は使い勝手がいいのだなと思いました。
四角 もともとアプリ好きなので、いろんな種類のメモやカレンダーを使ってきました。それでもやっぱり、汎用性の高さと使いやすさでAppleのメモアプリとGoogleカレンダーに勝るものはないです。Appleメモはクラウド同期が瞬時で、オフライン使用時にありがちな不具合もありません。フォルダ分けしたり、写真や動画も添付できるようになりましたし。「Evernote」や「Notion」など、もっと高機能なメモアプリは多数ありますが、僕は不要と判断しました。
本書に詳しく書きましたが、僕はカレンダーアプリにタスクもすべて書き入れています。TO DO管理のために、タスク管理アプリを使っている人が大半だと思いますが、「✓マーク/やるべきこと/必要な時間」を書いたタスクをカレンダーでスケジューリングすれば、別アプリは必要なくなります。終わったものから「✓」マークを消していくと、達成感を味わえて記録も残ります。このワンツール術に慣れると元に戻れなくなります。複数のアプリを走らせる煩雑な作業から解放されて、脳ストレスを大幅に軽減できるので。
――ところで話は変わりますが、スマホからプライバシー情報がダダ漏れしている話にはゾッとしました。私もAppleユーザーなのでトラッキング拒否だけはしていますが。
四角 GAFAの中でAppleだけは異色で、広告収入に頼らないビジネスモデルを貫いているんですね。だから、各デバイスにユーザーの行動記録と個人情報のトラッキングを拒否できるプライバシー保護機能を最初に搭載しました。トラッキングの怖さは本にも書きましが、「性能」や「利便性」にばかり気をとられてデバイスやアプリを選ぶのは危険です。警視庁もこの危険性について警告しているので、特にお子さんがいる方はぜひ読んでほしいですね。Apple以外の製品を使われている方は、トラッキング防止に特化したブラウザ「Brave」を使うことをおすすめします。
【第3回へ続く】
『超ミニマル主義』では、「手放し、効率化し、超集中」するための全技法を紹介しています。
【大好評連載】
第1回 【最も“非生産的”な働き方は何?】仕事を軽くして圧倒的な成果を出すたった1つの方法
執筆家・環境保護アンバサダー
1970年、大阪の外れで生まれ、自然児として育つ。91年、獨協大学英語科入学後、バックパッキング登山とバンライフの虜になる。95年、ひどい赤面症のままソニーミュージック入社。社会性も音楽知識もないダメ営業マンから、異端のプロデューサーになり、削ぎ落とす技法でミリオンヒット10回を記録。2010年、すべてをリセットしてニュージーランドに移住し、湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営む。年の数ヵ月を移動生活に費やし、65ヵ国を訪れる。19年、約10年ぶりのリセットを敢行。CO2排出を省みて移動生活を中断。会社役員、プロデュース、連載など仕事の大半を手放し、自著の執筆、環境活動に専念する。21年、第一子誕生を受けて、ミニマル仕事術をさらに極め――週3日・午前中だけ働く――育児のための超時短ワークスタイルを実践。著書に、『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』(サンクチュアリ出版)、『人生やらなくていいリスト』(講談社)、『モバイルボヘミアン』(本田直之氏と共著、ライツ社)、『バックパッキング登山入門』(エイ出版社)など。