専守防衛の原則を守ったまま
敵基地攻撃を行うのは難しい

 憲法9条は「戦争放棄と戦力の不保持」を規定している一方で、いわゆる「解釈改憲」によって自衛隊が存在してきた。

 改憲派は、このような「戦力の不保持」と「自衛隊の存在」という矛盾を解消し、外国の侵略に対する防衛・抑止と、日本国外への派兵による“国際貢献”を可能にすべきだと主張。軍隊の保持を明記し、完全に合憲にすべきだと声高に論じてきた。

 だがこれまで、その主張は実現してこなかった。

 自民党は、55年の結党時に策定した公式文書「党の使命」で「現行憲法の自主的改正」を実行すると記載しており、改憲を党の目標の一つとしてきた。それでも、歴代首相は改憲に慎重な姿勢を示してきた。

「タカ派」とされた中曽根康弘元首相でさえ、首相在任中の83年1月の「施政方針演説」で、「新憲法のもたらした民主主義と自由主義によって、日本国民の自由闊達(かったつ)な進取の個性が開放され、経済社会のあらゆる面に発揮された」と現行の憲法を高評価した。

 自民党内にも護憲派が存在するほか、国民世論の過半数は護憲を支持していたため、歴代首相は改憲に慎重にならざるを得なかったのだ。

「自民党の『党是』だから、改憲を実行する」と首相が主張するようになったのは、安倍元首相からである。自民党がその後も選挙で連勝を重ねたことで、政界における改憲勢力は衆参両院で着実に増えた。

 しかし国民の間では、いまだに護憲派が世論の過半数近くを占め、憲法改正を巡る国論は二分されている状況だ。

 そのため、岸田首相は今、「敵基地攻撃能力」を保持すると主張しながらも、「相手が攻撃を始めようとした時に攻撃する」ものであり、「専守防衛」は守られるとして改憲論議を慎重に避けている。

 だが私は、専守防衛の原則を守ったまま「敵基地攻撃」を行うのは難しく、非現実的だと考えている。敵基地攻撃は、「保持する防衛力は、自衛のための必要最小限のものに限る」という、専守防衛の本来の定義からも外れている。

 岸田首相の言う「専守防衛」のような、憲法9条の「拡大解釈」をせずに敵基地攻撃を実現するには、そろそろ改憲についての議論と真剣に向き合う必要があるのではないか。

憲法9条がもたらした
意外なデメリットとは

 護憲派が主張する通り、憲法9条の存在が戦後の「平和国家・日本」を創ってきたのは間違いない。憲法9条は、かつて近隣諸国を侵略した日本が、再び「ならず者国家」にならないよう抑え込む効果をもたらした。

 一方で、憲法9条を持つ「平和国家」としての姿勢が「穴」となり、北朝鮮のミサイル・核開発を許すなど、日本の安全保障体制を脆弱(ぜいじゃく)にしてきた側面もある(第180回・p3)。