賃金が上がらなければ
「新車を買えない消費者」はどんどん増える

 そもそもニュースにはあまり取り上げられていない話なのですが、新車の価格というのは実は逆説的な意味で「物価の優等生」だと私は考えています。経済の世界ではよく「卵は物価の優等生」という言い回しがあって、これは何十年にもわたって卵の価格は安く安定していることで、家計にやさしいという意味からつけられた名前です。

 ところが、デフレ経済が続く中でいえば卵は優等生かというとそうでもない。むしろアベノミクスで目標にしたように年々、きちんとインフレで価格が上昇するような製品のほうが物価の優等生ではないか? この逆説的な意味で捉えると、実は日本の新車価格は長期的にきれいに右肩上がりで値上げされています。

 私が自分の会社を立ち上げたのがちょうど20年前で、その当時、社用車としてカローラを購入したのですが、当時の新車価格が130万円でした。その当時、日本の経済が低迷していたこともあるのですが、100万円あれば軽自動車の新車が買える時代でもありました。

 それから何度か車を買い替えていくのですが、私が購入するコンパクトカーの価格はやがて150万円になり180万円になり、直近で購入したトヨタのヤリスの場合はついに200万円台になりました。

 これはあくまで机上の計算ですが、国が想定したように毎年2%のインフレであれば20年前に130万円だったものは200万円弱まで値上がりします。アベノミクスが始まる以前から、自動車産業はインフレターゲット政策から見れば優等生だったのです。

 ところがこれは日本経済の問題ですが、全体ではそのようなターゲット通りのインフレは起きず、結果として日本人の賃金もなかなか上昇しなかったのです。その結果起きていることが、新車が消費者から見れば相対的に高いものになってしまったため、新車を諦めて中古車に乗る日本人が増えている。これが、今起きていることです。

 そう考えると、今から2年後、半導体の供給が正常化した以降の中古車市場がどうなるかは、実は私たちの賃金が上昇するかしないかで前提条件が分かれます。

 私たちの給料が上がらない未来では、引き続き新車を買えない消費者が増えていきますから、半導体不足とロシア制裁がなくなった後でも中古市場は100万円を割らない中古人気が維持される未来が来ることでしょう。

 一方で私たちの給料が上がる未来では、新車の人気が回復し、中古車の需要はコロナ禍以前の状況に戻ります。2019年度の69万円を基準点として試算してみましょう。

 給料が上がる未来では、同時に毎年2%のインフレも起きます。中古価格もインフレ分は上がるはずなのですが、そう考えてみても2025年頃の中古価格は78万円ぐらい。正常だった昔の水準に戻りそうです。

 そして日本人にとってどちらがいいかといえば、やはり賃金が上がって物価も正常化したほうがいいですね。みんなが中古を奪い合うように求めて、中古価格が急騰する経済というのはやはり異常であって、先進国としては良くない状況なのだというのが私の結論です。