今、「学校に行かない子どもたち」が、とても増えています。小・中学校の長期欠席者は41万人(うち不登校が24万5000人・令和3年度)にのぼり、過去最高を更新しています。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。
不登校のとらえ方の変化
不登校が増えていくにつれて、不登校のとらえ方も少しずつ変わってきています。この流れは、不登校関連の書籍のタイトルからも読み取れます。
不登校が「特殊な事例」として扱われていた時代には、「認知行動療法」「不登校を直す」といった、子どもに変化を促し“不登校を解決する”というキーワードが目立っていました。
ところが、近年は、「学校だけが選択肢ではない」「自己肯定感を育む」といった、子どもの特性を受け入れつつ、学校と家庭の環境の変化も包括しながら考えようという視点が主流となっています。
そのためか、「そんなに心をすり減らしてまで学校に行く必要がないのでは?」と口にする保護者の声もよく聞くようになりました。不登校に対する社会の認識は、少しずつでも、確実に前に進んでいるのです。
法律も変わってきている
これまでは、世間の常識として、「学校に行かせること」が、「義務教育を果たすこと」とイコールであると考えられていました。「学校を休ませたいのですが」と先生に相談したところ、「子どもを学校に行かせないのは、法律違反です!」と、叱られたなんて話を聞くこともあります。
しかし、義務教育に関する考え方も、法律のレベルで大きな転換点を迎えています。
日本国憲法の第26条には「すべて国民は(中略)ひとしく教育を受ける権利を有する」「法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と、書かれています。義務については子どもに課せられているのではなく、保護者に課せられているということですが、この条項の意図は、子どもに教育を受けさせず家の仕事を手伝わせることなどを禁じるために設けられたとも言われています。
さらに、この条項には「法律の定めるところにより」とあります。
国の教育政策に関する考え方をまとめた法律「教育基本法」では、普通教育を「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、(中略)基本的な資質を養うこと」と定義しており、続けて国や自治体は、すべての子どもに義務教育を保障する義務を負っていること等が書かれています。
このため、学校教育は法律で定められた義務だと誤解を招きがちですが、ここで定められていることは、「国が義務教育を保障する義務を背負っている」ことであって、「無理して子どもを学校に通わせる義務がある」とはどこにも記されていないのです。
子どもにとって学ぶことは「義務」ではなく「権利」
普通教育の趣旨に適した教育であれば、学校以外の学びも教育として認められます。このことを法律で改めて明記したものが、2017年に施行された通称「教育機会確保法」です。ここでは「学校以外の場での多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の休養の必要性を踏まえ、不登校児童生徒等に対する情報の提供等の支援に必要な措置」を国や自治体が講ずるように求めています。
つまり、学校に行けない子どもに休養を与え、その間、学校以外の場所での学びを推奨していく考え方を示したのです。ですから、「学校に行かずにいろんな場での学び方を試してみる」ことに、うしろめたさを感じる必要はありません。前向きにとらえるべきことなのです。
しかしこの法律が制定される前までは文科省の不登校支援の考え方は「学校復帰が前提」となっており、この法律との間に矛盾が生じる状態になっていました。
そこで、文科省は2019年に、この法律を学校現場で運用するガイドラインとして「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す」と明記した通知を出します。
これも「大きな一歩」と言えるでしょう。
このように、不登校は、決して法律違反ではありません。子どもにとって学ぶことは、「義務」ではなく「権利」なのです。
*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。