売上を減らしたら、利益が1億円アップした会社をご存じだろうか?
「いずみホールディングス」は、食品流通事業とB to Bマネープラットフォーム事業を展開する企業グループ。食品流通事業6社は、水産・畜産・農産商品を全国の飲食店、量販店、卸売市場に販売。また、B to Bマネープラットフォーム事業では「oneplat」というサービスを展開している。同社は近年、経営改革を進め、利益を1億円アップさせた。
その秘密は、ベストセラーとなっている、木下勝寿(北の達人コーポレーション社長)著『売上最小化、利益最大化の法則』と『時間最短化、成果最大化の法則』の掛け算にあったという。
『売上最小化』は「2021年 スタートアップ・ベンチャー業界人が選ぶビジネス書大賞」を受賞、『時間最短化』は、「がっちりマンデー!!」のツイッターで、「ニトリ」似鳥会長と「食べチョク」秋元代表が「2022年に読んだオススメ本3選」に同時選抜された本だ。
今回、その掛け算の秘密をいずみホールディングスの泉卓真代表が初めてメディアに語った。8回目は「売上ゼロでも生き残る、たった1つの考え方」について迫ろう。(構成・橋本淳司)

電卓 考えるPhoto: Adobe Stock

「無収入寿命」とは?

――木下社長は『売上最大化、利益最大化の法則』の中で、「無収入寿命」の重要性について触れていますが、経営者にとってはとても気になるワードではないですか?

「無収入寿命」とは、「売上ゼロになっても経営の現状維持ができる期間を指す」木下社長の造語です。

 現状維持とは、減給などのコスト削減なしで全従業員の雇用を維持し、家賃の支払いができることです。

 木下社長は「売上がゼロになっても、社員に給料を払い、家賃を払い、毎日安心して働ける状況を保つのは経営者の責務」と書いていますが、まったく同感です。

 とりわけ新型コロナのような突発的なアクシデントがあったときには、その重要さが際立ちます。

「無収入寿命」が長ければ長いほど、社員は安心して仕事ができると思います。

――泉社長も同じ方向の考え方を持っているのですね。

 確かにそうなのですが、「無収入寿命」という魅力的な言語化はできていませんでしたし、精度も高くはありませんでした。

 実際、『売上最小化、利益最大化の法則』を読んでから社内の共通言語として「無収入寿命」を使わせてもらうようになったほどです。

 当社には、事業はすべて自己資本で行うというルールがあったので、この17年ほど無収入寿命1.5年をずっと維持できています。無収入寿命については、ぜひこの本で勉強してみてください。

無一文からの事業スタート

――「無収入寿命1.5年」ということは、「1円の入金がなくても、18か月は全社員の給料を支払えるし、家賃も支払える」ということですね。

 もし事業に大きなアクシデントが発生したとしても、その間に新しい事業を軌道にさせる余裕がある。

 事業をすべて自己資本で行うというルールはどのようにして生まれたのですか?

 この本の中で、木下社長は、

資本金1万円で合資会社をつくり、パソコン1台をフル回転させ、取引先を探した

 と創業時のことを書いていますが、私も資金がない中で事業を始めました。

 数万円でスタートしたのです。

 当時、売掛金が焦げついた経験があったので、「無収入寿命」の必要性は肌感覚でよくわかります。

 質のいい会社と質のいい取引をし、質のいい会社になりたい、というのが私たちの考えです。

 今日、1億円の商品・サービスが売れたから素晴らしいとはなりません。

 それが回収されて初めて売上なのです。

 そう考えていれば、資金が回収されなかった場合、どんなリスクがあるか?

 どれくらい資金を持っていないと、会社が危険な状態になるかと常に考えられます。

 そういう思いでやってきたので、「無収入寿命」の考え方はストンと腹落ちしました。

長期で借入を行う理由

――『売上最大化、利益最大化の法則』には、「無収入寿命」を伸ばす具体的な方法が解説されています。

 1.「無収入寿命」を何か月にするか目標を決め、2.月次決算に「無収入寿命」を算出し、3.純手元資金の目標額が貯まるまで大きな投資をせずに貯め、4.純手元資金の目標額が貯まったらチャレンジすると。そのほかに裏技として「長期借入金で借りて使わない」という方法が紹介されていますね。

 実は私たちもそれに似たことをやっておりまして、銀行借入を必ず5年長期で行います。

 こうすれば、5年間、資金繰りを考えずにすみます。

 さらに、このとき、2つの銀行と取引します。

 たとえば、今年A銀行から5億円借りたとします。

 2年半経ったら、別のB銀行から5億円借ります。

 この時点でA銀行からの借入金は2.5億円になっているので、手元には7.5億円があります。

 さらに2年半経つとA銀行からの借入は完済され、B銀行からの借入金は2.5億円になっています。そこで再度A銀行から5億円借ります。

――借入金を使うことがありますか?

 基本的には一切手をつけません

 新規事業への投資や設備に活用したことはありません。

 それは木下社長と同じ考えです。

 借入金は基本的に売掛金と買掛金のギャップに充てることだけに使います。

 お客様に販売したときに売掛金が計上されますが、売掛金=現金収入ではありません。

 もしこれが不良債権化したらコストになってしまいます。

 当社には、売掛金が回収されるまで売上とは考えないという文化が元々ありました。

 今回、木下社長の本を研究しつくすことで、「無収入寿命」の考え方を改めてグループ全体として再度明確に意識していこうと思いました。

 まだ読まれていない方はぜひ読んでみてください。

【1億円利益アップ社長の独白】売上ゼロでも生き残る、たった1つの考え方
【泉卓真氏略歴】
株式会社いずみホールディングス 代表取締役社長。
複数の飲食チェーン店勤務を経て2004年に海産物専門卸のいずみを創業。その後、畜産物卸や農産物卸にも参入し、2012年にいずみホールディングスを設立。2019年、株式会社Oneplatを設立し、代表取締役社長に就任。SBIや三菱UFJ、政府系の官民ファンドなどから総額10億5000万円の投資を集め、銀行をはじめとした金融機関と提携し、日本初のスキームで構築された、BtoBマネープラットフォームを構築。

(本稿では『時間最短化、成果最大化の法則』と『売上最小化、利益最大化の法則』をフル活用し、大きな成果を上げた事例を紹介しています)