コロナ禍による巨額赤字で
例外的措置として運賃改定
いずれもコロナ後の収支改善を狙った運賃改定だが、本来の制度からすれば例外的措置によるものだ。
鉄道の運賃は総収入(運賃・料金収入)が、人件費や経費、減価償却費、諸税からなる営業費に、支払利息や配当金など事業報酬を加えた「総括原価」を超えない範囲で認可される。なおJR・大手私鉄・地下鉄は事業効率化の経営努力を反映して総括原価を調整する制度が組み合わされる。
人件費・物価の上昇による総括原価の増加、沿線人口減少による運賃収入の減少などで、向こう3カ年の平均総収入が総括原価を下回ることが想定される場合、それを穴埋めする分の運賃改定(値上げ)が認められる仕組みだ。
本来、このような変化は徐々に進むが、コロナ禍は一瞬で旅客需要を蒸発させ、鉄道事業者に前例のない巨額の赤字をもたらした。3年先までの見通しが立たなければ運賃改定は申請できないが、コロナの終息を待つ余裕はない。
そこで今回の運賃改定(上限変更認可)は改定日から5年後の年度末、つまり2023年3月実施の東急は2028年度末、10月実施の南海は2029年度末までの期限を設けた上で、運賃改定の翌年度から3年間の総括原価と総収入の実績を確認して検証。実態に応じて上限運賃を調整するとしている。
国交省への認可申請資料によれば、東急の2020年度の総収入は1149億円、総括原価は1462億円で312億円の赤字だ。鉄道統計年報によれば営業費は1290億円なので鉄道事業は営業損失を生んでいた。
認可申請における3カ年(2023~2025年度)平均の推定値は、改定前の運賃では総収入1412億円、総括原価1562億円で150億円の赤字、改定後の運賃では総収入1556億円、総括原価1562億円で6億円の赤字となる。
近鉄の場合は2020年度実績値で、総収入1000億円、総括原価1448億円で448億円の赤字。3カ年平均は改定前の運賃では総収入1277億円、総括原価1542億円で265億円の赤字、改定後の運賃では総収入1434億円、総括原価1542億円で109億円の赤字となる想定だ。
いずれも運賃改定で1割程度の増収を図る。なお計算上は改定後も赤字になるが、総収入が営業費を上回るため営業黒字であり、減価償却費を加えれば多額のキャッシュフローを生み出す。鉄道事業が引き続きグループの中核であり続けることには変わらない。