ウクライナ紛争が長引くほど
米英が得をする

 もちろん中国の和平案は、ロシアが軍事的に制圧している地域の併合など、ロシア側の意向に沿った内容であろう。「力による一方的な現状変更」を認めることになるため、自由民主主義陣営にとっては到底容認できない内容だ。

 だが、中国の提案が「停戦の実現」を目指しているのは紛れもない事実だ。これ以上、ウクライナで人命が失われる事態を防げるかもしれず、完全に無視することはできない。

 一方、日本をはじめとする自由民主主義陣営は、先述の通り徹底抗戦を支持している。

 特に米英は、ウクライナが失った領土を奪還することよりも、戦争を延々と継続させることを目的に、中途半端に関与しているように思える(第325回)。

 米英や西側諸国は、北大西洋条約機構(NATO)の「三大戦車」など、さまざまな兵器・弾薬類をウクライナに供与し続けてきた(第301回)。しかし、それだけで戦局を抜本的に変えるのは難しい。むしろ戦争はさらなる膠着(こうちゃく)状態に陥るだろう。

 にもかかわらず、なぜ米英は戦争を長引かせようとするのか。その理由は、米英がこの戦争で被る損失が非常に少なく、得るものが大きいからだろう。

 例えば、ウクライナ紛争の開戦後、欧州ではエネルギー源の「脱・ロシア依存」が進んでいる。米英の石油大手にとっては、かつて独占していた欧州市場を取り戻す絶好のチャンスである(第325回・p3 )。

 また、紛争が長引けば長引くほど、「力による一方的な現状変更」を行ったプーチン大統領は国際的に孤立し、国内でも支持を失っていく(第304回・p3)。

 米英にとって、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機なのだ。だからこそ、ウクライナ紛争を積極的に停戦させる理由がない。

 さらに、大きな視点で見れば、ウクライナ紛争が開戦する前の段階から、米英はロシアに対して非常に有利な状況にあった。