「自分は乗り越えられたから」は危険

 なぜこのような被害表明が必要かというと、過去に体罰やハラスメント被害に遭った人は、その後大きく分けて2種類の行動・思考回路に分かれると思うからだ。

 一つは、過去に自分に起こったことを「被害」と受け止め、他の人に同じような被害が起こらないようにすべきだと考えるタイプである。

 もう一つは、過去の自分の被害を「被害」と考える意識が薄く、自分はそれを乗り越え、すでにもう傷ついていないから、他の人も同じように乗り越えればよいと考えるタイプだ。

 過去にハラスメントなどの被害を受けていた人が、その後に加害者になったり、加害者とまではいかずとも被害者に対して二次加害を加えてしまったりすることはある。

 自分が乗り越えられたのだから、他の人もそれをできるはずであり、できないのは甘えているからだ……そのような心境になっていないだろうか。

 例えば過去に教師から受けた体罰を、「嫌だったけれど、今になってみれば自分にとって必要だった」と解釈することは個人の自由である。しかし、だからといって他人にもそれを強いてしまえば、加害行為の容認になりかねない。負の連鎖が続いてしまう。

 自分が過去に受けた被害を被害だと認め、人に話すのは思いの外しんどいことでもある。しかし、そのようにして被害をいったん受け止めるのは、今現在しんどい思いをしている他者への共感を深くし、寄り添う姿勢につながるはずだ。