もし政界挑戦などによって会社員としての“空白期間”ができると、中途採用で低評価され、ビジネス界には戻りづらくなるからだ。
 
 すなわち、一般企業の社員が日本で政治家になるということは、大学4年生時の「新卒一括採用」で得た「正社員」の座を捨てることである。生まれながらに三バンを持つ「世襲」の候補者を除けば、大きなリスクのある挑戦となる。

 そうなると、年功序列・終身雇用のレールに乗って順調に出世している優秀な人が、わざわざ退職して政治家になる理由がない。会社を辞めるのは、社内で満足な評価を得られず、不満を募らせている人だろう。

世襲議員を高学歴の官僚が支える
「逆・学歴社会」が誕生

 なお、会社員だけでなく公務員(官僚)でも、「くすぶっている人が外に出たがる」傾向があるという。

 あるエリート官僚によると、彼と同じ省から国会議員に転身する人は少なくないものの、政界入りした人物の中で「尊敬できるのは1人しかいない」という。

 すなわち、省内で出世コースに乗り、仕事が充実している官僚は政治家に転身しない。転身するのは、省内で評価されず、不満を持っていた官僚なのだ。

 ちなみに、英国など欧州では、政治家への道は日本ほどリスキーではない。早期に主要閣僚の業務をこなせる能力を持つ優秀な若者が政界入りしている。40代で首相に就任する政治家も少なくなく、閣僚も若手が起用されることが多い(第131回)。

 また、首相や閣僚を辞任後、政界からビジネス界に転じることも多い。米国のIT企業でCEOを務める者もいる。このようなキャリア形成が可能なのは、年功序列・終身雇用がないからに尽きる。

 要するに、優秀な人材が政界を目指せる風土を生むには、政界の中だけでなく、日本社会全体の改革が必要だといえるだろう。

 あえて皮肉な言い方をすれば、現在の日本の政界は、成蹊大学、成城大学、学習院大学や、幼稚舎から慶応に入った「世襲のお坊ちゃま・お嬢さま」が牛耳っている。

 それ以外の外部参入組は、会社や省庁で出世できずに、政界に転じた人たちで占められている。

 そうした人々を、東京大学や京都大学を卒業した官僚が支えているのだ。この構図は「逆・学歴社会」だといえる(第233回)。

 これでは、優秀な人材はバカバカしくなって政界に興味を持たなくなる。これが「政治家の世襲問題」の本質なのではないだろうか。