今、「学校に行かない子どもたち」が、とても増えています。小・中学校の長期欠席者は41万人(うち不登校が24万5000人・令和3年度)にのぼり、過去最高を更新しています。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。
「ナナメの関係」を築ける誰かを一緒に探す
NPOカタリバでは、タテの関係(親や先生)でも、ヨコの関係(同世代の友達)でもない、年上の人とのゆるやかな関係性を「ナナメの関係」と呼んで、ずっと大切にしてきました。
思春期世代は、「親から自立したい、でも不安」という揺らぎの中にいます。親に反発し、友達の言うことばかりに耳を傾けるようになるのは、健全な成長の証です。
でも、時に友達との関係に悩みを抱えることもあり、それでも親には頼りたくない。そんな思春期世代にとって、「ナナメの関係」の人とよい形で出会えることは、とても大切なのではないかと思うのです。
たとえば、自分が暮らしているコミュニティとは違う世界で生きている、ちょっと年上の人。お説教ではなく「今の自分はこうなんだよね」と少し先からヒントをくれる人……。
親にも友達にも言えない気持ちをポロッとこぼせたり、その人といるだけで、自分がいる世界の外側に楽しいことがあるのかもしれない、と思えるような、そんな人がいるだけで、子どもは救われることがあります。
子どもが心を開ける人を探す
子どもが不登校になった時、親にできることのひとつは、子どもにとって安全な「ナナメの関係」の人と出会える可能性のある場所に誘い出すこと。
親がしゃしゃり出なくてもSNSなどを使えば、子ども自身が簡単に人とつながれる時代ですが、判断能力が乏しい子どもたちが自由にネットで人とつながることは、ライフジャケットも着ずに海に出て、いかだで大海を渡ろうとするようなもの。
特に心が弱っている時は、大人でも子どもでも、自分のことを分かってくれると思う人にすがりたくなるものです。でもその結果、様々な事件につながる事例もありますので、不登校で心のエネルギーが落ちている時は、少し慎重に見守ってあげる必要があります。
ですから、まずは親が信頼できると思える人とのつながりの中から、お子さんが「この人なら」と心を開くことができる人は誰なのか、そこからきっかけをつくってあげると安心でしょう。
苦労してお膳立てしても、子どもが嫌なら「無理強いしない」
ただし、ここで大切なのは、「無理強いはしない」こと。特に思春期の子どもは親の意図を察して、さらに心を閉ざしてしまうこともあります。
いろんな場に一緒に行こうとしたり、自宅に人を招いて一緒に食事をしてみたりしても、「行きたくない」とか「めんどくさい」と言って出てこなくて、結局無駄になることもあるでしょう。協力をお願いした人に「せっかく来ていただいたのに申し訳ない……」と言わなければならないこともあるかもしれません。
何をしてもダメで、親がヘトヘトになってしまう、そんなこともあるかもしれません。
でも、大切なのは、子どもの心が少しでも前を向くきっかけが見つかること。それだけはぶれないように、ゆっくりと、伴走していきましょう。
*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。