人の上に立つと、やるべき仕事や責任が格段に増える。メンバーの模範として働きつつ、部下の育成や業務管理など、プレーヤー時代とは異なるタスクが多く発生し、はじめは「何から手をつければいいのだろう…」「やるべきことが多すぎないか…」と戸惑ってしまうだろう。
そんな悩めるリーダーたちにおすすめの書籍が、株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏の著書『とにかく仕組み化』だ。これまでのシリーズ『リーダーの仮面』『数値化の鬼』でも「やるべきことが10分の1に減った」「まわりと圧倒的な差をつけられた」「何度読み返しても言葉が深く刺さる」など、多くの賛同の声を集めた。そんな大人気シリーズ最新刊の本書では、「人の上に立つためには『仕組み化』の発想が欠かせない」というメッセージをわかりやすく説く。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、「非リーダータイプでも管理職になれる」たった1つの質問をご紹介する。(構成/種岡 健)

「非リーダータイプでも管理職になれる」たった1つの質問Photo: Adobe Stock

「自分で決めること」をやめた人たち

「属人化」ではなく「仕組み化」に頭を切り替える。
 これが管理職になる人が考えることです。

 そのために、人の上に立つ人は、ルールを決める責任があります。
 ただ、そう言うと、1つの勘違いを生みます。それは、

「権力を握ることは悪いことではないのか?」

 という誤解です。
 政治や戦争のイメージが先行して、「権力=悪」と結びつけてしまいがちです。

 しかし、人が権力を持つことは、別に悪いことではありません。
 権力とは、権利を持つことが許された人が、それを正しく行使するということです。
 まずは、その考えを認識しておく必要があります。役職に応じて決裁ができる仕組みは、組織において大事な機能です。

「いい権利」と「悪い権利」がある

 ただし、「いい権利」「悪い権利」を分けて考えなくてはいけません。
 その権利が「いい権利」であることには、ある「条件」があります。
 それは、その権利の範囲が「文章として明確になっているかどうか」です。

 誰に聞いても、「それは部長が決めることだ」と、全員一致で言えることが大事です。
 そのように「いい権利」を与えられた状態を、識学では、「権限がある」と定義しています。

 では、「悪い権利」とは何でしょうか。
 これは、「文章として明確になっていない曖昧な権利」のことを指します。
 よく、「既得権益」という言葉が使われます。

「いちばん先輩であるAさんに話を通さないといけない」
「本当はメンバー全員が前もって納得しておかないといけない」

 など、明文化されていない裏のルールが、あなたの会社にもあるのではないでしょうか。
 権利を持っていないのに、持っているように振る舞う。
 そんな陰の実力者が、どんな職場にもいます。

 そこまでわかりやすくなくても、多かれ少なかれ、「見えない決まりごと」が組織にはあります。
 そして、これがもっともトラブルを生む原因と言っても過言ではありません。
 なぜなら、その「悪い権利」があることによって、認識のズレが生じて、人によって言うことが違ってきてしまうからです。

ベテラン社員の「既得権益」

 これは、ある小さなIT企業で起こったトラブルです。
 そこでは、新入社員が自分の仕事を覚え、上司への確認をとり、新しい顧客を獲得してきました。
 すると、「そんなの聞いてない」と、ベテラン社員から不満が出たそうです。

 新入社員「上司には了承を得ました」
 ベテラン「いや、その業界の顧客は私が前に担当していた。だから話を通さないと」
 新入社員「そんなこと、どこにも書いてないですよね?」
 ベテラン「書かなくても、それくらい雰囲気でわかるでしょ?」

 こうしたやりとりが多発し、その新人は、早々に会社を去りました。
 これに似た例は、会社組織で数多く発生しています

 もし、ベテランの先輩に話を通すべきなのであれば、上司がそう伝えなければなりません。新入社員や中途社員に、上司から自分の言葉で説明する責任があります。
 あるいは、上司が「そのルールはおかしい」と判断するのなら、「悪い権利」として潰さないといけません。
 いずれにせよ、「責任をとって決めていない」ということが原因です。

「既得権益」を壊すための仕組み

 先ほどの例では、年上や社歴が長いということだけで、ある特定の人が、責任以上の権利を持ってしまっています。
 つまり、「悪い権利」であり、「既得権益」と化している状態です。

 そのベテラン社員が権利を持っていたとしても、何か問題が生じたときに、責任をとれません。
「私は関係ありません。その新入社員の上司の責任です」と、言い逃れができてしまいます。
 こうした状況をなくしていくのが、人の上に立つ人の役割です。

 先ほどの例であれば、上司がキッパリと、

「私が許可したので、問題ありません」

 とベテラン社員に伝え、新入社員を守らないといけません。

 そして、全社員に向けて、

「上司が許可したなら、他の社員に前もって了承をもらう必要はありません」

 と、明文化して伝えるのです。
 もし、ベテラン社員を尊重したほうがチームのためだと判断したのであれば、

「ただし、新しく業界を開拓するときに、前の担当が社内にいるのであれば、その人に事前に話を通すように」

 と追記して、ルールを決めればいい。こうすると、部下は迷いません。
 そうやって既得権益を壊すために、「仕組み」で解決することができるのです。

「非リーダータイプでも管理職になれる」質問

 では、最後に「質問」です。

質問:「いい権利」と「悪い権利」を分けているか?

「そんな話、私は聞いていない」と、権利を持っていない人が主張する場面があります。
 ある特定の人が、責任以上の権利を持ってしまっているのは、「悪い権利(既得権益)」です。

 本当であれば、何か問題が生じたときに「責任を取れる人」が、指示を与えたり、許可をしたりできます。
 それは当然の「いい権利(権限)」です。

「上司がOKなら、他の社員に前もって了承をもらう必要はありません」

 と、明文化して伝えられるようになりましょう。
 これであれば、非リーダータイプの人でも実行可能です。
 そのために、「いい権利」と「悪い権利」を分けて考えるようにしましょう。

(本稿は、『とにかく仕組み化』より一部を抜粋・編集したものです)