世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、クラウゼヴィッツの『戦争論』を解説する。
戦争とは何なのか。どうして起こるのか。その目的とは? 戦争についての初めての理論的な分析を行ったクラウゼヴィッツ。ナポレオン戦争で勝ったのも彼の理論分析による功績が大きいとされる。『孫子』の兵法と並ぶ、近代の戦争論は現代にも大きな影響を与えている──。
世界の「戦争」常識にびっくり?
従来の戦争に関する書物というものは用兵術や戦争の記録でした。
ところが、クラウゼヴィッツは『戦争論』において、初めて「戦争とは何なのか?」という本質論を展開したのでした。プロイセンの将軍であり軍事理論家である本人が著したというのも説得力があります。
一般に、戦争が悪いものと考えるのは当たり前ですが、本書においては「真実・本質」から目を背けてはいけないという徹底した戦略論が展開されます。
まず、戦争は突然に勃発するのではなく、政治の延長線上に生じるということが説かれます。
国家戦略と政治と外交は「政治」と表現されています。そして、国家戦略の目的を達成する手段として政治・外交・軍事をとりあげ、平時は政治・外交を、戦時は軍事であると主張します。
「戦争は他の手段を持ってする政治の継続にすぎない」「政治は目的をきめ、戦争はこれを達成する」(同書)
また、人間活動の中で偶然が作用しますが、「戦争ほど偶然の働く余地の大きいものはない」ので、「予想外のことの現れることが多い」とされます。
情報もガセネタであることが多く「虚報は波のごとし」とされます。
クラウゼヴィッツによると戦争の目的は「敵の完全な打倒」です。また、「敵国の国境付近において敵的国土の幾ばくかを略取」します。
この場合「略取した地域をそのまま永久に領有するか、それとも講和の際の有利な引き換え物件とするか」は自由です。
世界情勢を知るため「こっそり読むべき」書
「戦争は政治的手段とは異なる手段をもって継続される政治に他ならない」
つまり戦争は政治が行き詰まったら必ず起こるものだという、ホントのこと(?)をどんどん暴露してしまうのが本書の特徴です。
本書には「戦争術の区分」「戦争の論理について」「戦略の諸要素」「奇襲・詭計のやり方」「空間における兵力の集中法」「時間における兵力の集中法」「戦争を構成している究極の要素の分析」など、国家間の戦争に勝つためのノウハウが網羅されており、現代の世界各国の国防組織の必読書になっているのかもしれません。
「二人のあいだで行われる決闘に注目したい、およそ戦争は拡大された決闘にほかならないからである。即ち彼が端的に目的とするところは、相手を完全に打倒しておよそ爾後(じご)の抵抗をまったく不可能ならしめるにある」「戦争の目標は敵の防御を完全に無力ならしめるにある」など、慈悲のかけらもない説明が全体にわたって続きます。
また、戦争には軍人の精神的な士気・モチベーションが大きく影響すると強調されます。
戦争の要因というのは、「即ち現存する資材(戦闘員および戦闘器材を含む)と戦闘員の意志力の強さである」「敵の戦闘力は撃滅せられねばならない、換言すれば我々は敵戦闘力をもはや戦争を継続し得ないほどの状態に追い込まねばならない」とあるように、中途半端な攻撃は許されず、相手が完全にやる気を失うような作戦をとれというのです。
また「敵の国土は攻略されねばならない、国土は新たな敵戦闘力の供給源となることがあり得るからである」と根本的な殲滅作戦が記されています。
この『戦争論』の一部に目を通すだけで、現代の国際情勢への見方が変わってくるでしょう。
特にこちらから戦争をするという観点で読むのではなく、防御の観点から読むと現実を把握しやすくなるかもしれません。
富増章成(とます・あきなり)
河合塾やその他大手予備校で「日本史」「倫理」「現代社会」などを担当。
中央大学文学部哲学科卒業後、上智大学神学部に学ぶ。
歴史をはじめ、哲学や宗教などのわかりにくい部分を読者の実感に寄り添った、身近な視点で解きほぐすことで定評がある。
フジテレビ系列にて深夜放送された伝説的知的エンターテイメント番組『お厚いのが、お好き?』監修。
著書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)、『日本史《伝説》になった100人』(王様文庫(三笠書房))、『図解でわかる! ニーチェの考え方』、『図解 世界一わかりやすい キリスト教』『誰でも簡単に幸せを感じる方法は アランの『幸福論』に書いてあった』(以上、KADOKAWA)、『超訳 哲学者図鑑』(かんき出版)、『オッサンになる人ならない人』(PHP研究所)、『哲学の小径―世界は謎に満ちている!』(講談社)、『空想哲学読本』(宝島社文庫)など多数。
【著者からのメッセージ】
私たちはなぜ本を読むのでしょうか。それは「本は人類が積み上げてきた叡智のアーカイヴだから」です。本は、人に知識や喜怒哀楽すべての豊かな経験を与えてくれる存在です。ときに読んだ人の人生を変えてしまう本だってあるでしょう。
この本で紹介しているのは、本のなかでも特に多くの人に読み継がれていたり、あるいは数千年という時を経ても今なお読まれている本、つまり「名著」です。
「名著」にはそう呼ばれるだけの理由があります。たとえば多くの人が今悩んでいることのほとんどは、この長い歴史上で誰かがすでに徹底的に考えていることです。紀元前という昔に遡っても、人間はやはり人間なのです。だから、もしあなたに悩みや、疑問に感じていることがあるなら、それらの答えのヒントはほぼ「名著」のなかにあるのです。
「目標がないし、やる気も出ない」「思考が乱れて集中できない」「健康なのに、なぜか疲れを感じる」「勉強したいが、どこから何をしたらいいのかわからない」「働いても働いても、楽にならないのはなんでだろう」「歳をとってきて、だんだん楽しみが減ってきた」
そんな悩みは、この本で紹介する「名著」のエッセンスを手に入れればたちまち解決するはずです。自分で思い悩むよりずっと気分が晴れること、請け合いです。
ところで、「名著」の多くは、とても難解で、それでいて分厚いものが多いです。しかし、名著が難解なのには、実は理由があります。分厚い古典的「名著」は、その時代背景と常識を前提として書かれているので、多くの場合、現代の私たちにとっては説明不足なのです。また、その学問世界の専門用語を「知ってるんでしょ?」という前提のもとに書かれていますから、こっちはわかるわけがない。
「名著」は、下手をすると一冊をしっかりと理解するのに20年以上かかります(それでも、さらに疑問は増えていきます)。普通に生きて普通に暮らしている私たちには、そんな時間はありません。つまり、「名著」とは基本的に「読破することができない本」なのです。
人生は短い。だからこそ「名著」をまず、おおざっぱに理解して、興味が出たら原典にあたればよいのです。この本では、古今東西の「名著」のうち哲学から心理学、経済学まで選りすぐった60冊のエッセンスをイラストとともにわかりやすく解説していきます。
※収録した60冊は、『ソクラテスの弁明』(プラトン)、『方法序説』(デカルト)、『実践理性批判』(カント)、『現象学の理念』(フッサール)、『歴史哲学講義』(フッサール)、『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ)、『存在と時間』(ハイデガー)、『存在と無』(サルトル)、『自由からの逃走』(フロム)、『社会契約論』(ルソー)、『資本論』(マルクス)、『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン)、『グーテンベルクの銀河系』(マクルーハン)、『ポストモダンの条件』(リオタール)、『複製技術時代の芸術』(ベンヤミン)、『アンチ・オイディプス』(ドゥルーズ&ガタリ)、『21世紀の資本』(ピケティ)など。
もちろん原典と比べてその情報量は雲泥の差です(本書の場合、500ページ以上ある本も見開き4ページにまとめているのだから)。でも、なんにも読まないよりずっといいでしょう? そう思いませんか。分厚い本を一冊買って、読まないで部屋に飾っておくより、本書を電車の中で読んだほうがよいのではないでしょうか。
必ずしも時代順になっていないので、どこから読んでもOKです。パラッとめくって、全体を眺め、どんなふうに自分の役に立ちそうかを考えます。それぞれの本は、関連を他のページとリンクしてあります。つながりの意味については、本書の冒頭に収録した「ひと目でわかる名著の関連図」を参照してください。
ぜひ本書を活用して、自由な思考法を手に入れて、人生の難問解決をはかり、明日に向かって進んでください。きっと、すばらしい未来が広がっていくことでしょう。