世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、クラウゼヴィッツの『戦争論』を解説する。

戦争とは何なのか。どうして起こるのか。その目的とは? 戦争についての初めての理論的な分析を行ったクラウゼヴィッツ。ナポレオン戦争で勝ったのも彼の理論分析による功績が大きいとされる。『孫子』の兵法と並ぶ、近代の戦争論は現代にも大きな影響を与えている──。

読破できない難解な本がわかる本Photo: Adobe Stock

世界の「戦争」常識にびっくり?

 従来の戦争に関する書物というものは用兵術や戦争の記録でした。

 ところが、クラウゼヴィッツは『戦争論』において、初めて「戦争とは何なのか?」という本質論を展開したのでした。プロイセンの将軍であり軍事理論家である本人が著したというのも説得力があります。

 一般に、戦争が悪いものと考えるのは当たり前ですが、本書においては「真実・本質」から目を背けてはいけないという徹底した戦略論が展開されます。

 まず、戦争は突然に勃発するのではなく、政治の延長線上に生じるということが説かれます。

 国家戦略と政治と外交は「政治」と表現されています。そして、国家戦略の目的を達成する手段として政治・外交・軍事をとりあげ、平時は政治・外交を、戦時は軍事であると主張します。

「戦争は他の手段を持ってする政治の継続にすぎない」「政治は目的をきめ、戦争はこれを達成する」(同書)

 また、人間活動の中で偶然が作用しますが、「戦争ほど偶然の働く余地の大きいものはない」ので、「予想外のことの現れることが多い」とされます。

 情報もガセネタであることが多く「虚報は波のごとし」とされます。

 クラウゼヴィッツによると戦争の目的は「敵の完全な打倒」です。また、「敵国の国境付近において敵的国土の幾ばくかを略取」します。

 この場合「略取した地域をそのまま永久に領有するか、それとも講和の際の有利な引き換え物件とするか」は自由です。

世界情勢を知るため「こっそり読むべき」書

「戦争は政治的手段とは異なる手段をもって継続される政治に他ならない」

 つまり戦争は政治が行き詰まったら必ず起こるものだという、ホントのこと(?)をどんどん暴露してしまうのが本書の特徴です。

 本書には「戦争術の区分」「戦争の論理について」「戦略の諸要素」「奇襲・詭計のやり方」「空間における兵力の集中法」「時間における兵力の集中法」「戦争を構成している究極の要素の分析」など、国家間の戦争に勝つためのノウハウが網羅されており、現代の世界各国の国防組織の必読書になっているのかもしれません。

「二人のあいだで行われる決闘に注目したい、およそ戦争は拡大された決闘にほかならないからである。即ち彼が端的に目的とするところは、相手を完全に打倒しておよそ爾後(じご)の抵抗をまったく不可能ならしめるにある」「戦争の目標は敵の防御を完全に無力ならしめるにある」など、慈悲のかけらもない説明が全体にわたって続きます。

 また、戦争には軍人の精神的な士気・モチベーションが大きく影響すると強調されます。

 戦争の要因というのは、「即ち現存する資材(戦闘員および戦闘器材を含む)と戦闘員の意志力の強さである」「敵の戦闘力は撃滅せられねばならない、換言すれば我々は敵戦闘力をもはや戦争を継続し得ないほどの状態に追い込まねばならない」とあるように、中途半端な攻撃は許されず、相手が完全にやる気を失うような作戦をとれというのです。

 また「敵の国土は攻略されねばならない、国土は新たな敵戦闘力の供給源となることがあり得るからである」と根本的な殲滅作戦が記されています。

 この『戦争論』の一部に目を通すだけで、現代の国際情勢への見方が変わってくるでしょう。

 特にこちらから戦争をするという観点で読むのではなく、防御の観点から読むと現実を把握しやすくなるかもしれません。