IR次第で株価は上がるのか

 こうしたIR活動の効果については、1990年代から学術的な実証分析が行われてきました。主にIRに優れている企業の資本コストが一般的な企業と比較してどの程度低いか、すなわち、IRにより企業の将来収益への予見可能性が高まることで資本コストが抑制される、という仮説が実証的に研究されてきたのです。

 その結果、たとえば、米国のクリスティーン・ボトサンの1997年の論文では、製造業122社のアニュアルレポートをサンプルに優良ディスクロージャー企業とそうでない企業とのあいだで約0.3%の資本コストの差がある、とされています[*1]。

 日本企業については、2004年の須田一幸氏(当時・早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)による研究が有名です。1995年度から2000年度の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」によるランキングと資本コストの関係を検証し、IR評価が各セクターで3位以内の企業は4位以下の企業に比して約0.5%、1位の企業は4位以下より約0.8%、それぞれ資本コストが低いとの分析結果が報告されています[*2]。

 米国の研究結果にある0.3%の資本コスト低減効果を株価に引き直すと、10%の株価プレミアムに相当します。