IR活動の効果は100億円単位

 私は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のCFO時代から、IRチームのメンバーに「IRは営業だ!」と言い続けてきました。営業パーソンが新規顧客開拓のため飛び込み営業を行うように、IR活動では株主ではない投資家に自社株を売り込みます。また、営業部門がリピーターのお客様を定期的に訪問してフォローアップするように、IRでは既存の株主には直接訪問し対話を行います。

 IRチームが売る商品は自社製品ではなく自社の株式ですが、行動自体は営業部門の社員の行動となんら変わりはありません。

 IRチームは、自社の戦略や非財務領域での取り組みをアピールし、自社の将来業績に対する投資家の予見可能性を高める努力を行います。IR活動の結果、資本コストを下げることができれば、同じ利益でもPERを高め、株価にプラスの影響を及ぼすことができます。

 IR活動の巧拙による企業価値への影響は、前述の研究結果(株価に10%の影響)を用いると、時価総額1兆円の企業でおよそ1000億円、5000億円の企業で500億円規模と算出されます

 ニコンのIRチームは7、8名ですし、上場企業のなかにはIR担当が数名しかいない企業も珍しくありません。つまり、IR活動により、1人あたり100億円前後の市場評価額の改善をもたらすこともできるのです。

 IRチームは成果が目に見えないだけに、社内的に「コストセンターだ」と言われることも多いようですが、実は、「企業価値向上部隊」の一員だと私は考えています。

 開発部門が苦労して製品を生み出し、営業部門が努力してその製品をお客様にお届けし、世の中に価値を生み出しています。そして、間接部門も含めた全社員の日々の活動を、経理チームがバランスシートやキャッシュフロー計算書および損益計算書としてまとめています。

 こうした連鎖の最後が、IRチームによる対外的な説明です。

 資本市場からのフェアなバリュエーション(実態に即した株価や時価総額)を獲得するためにも、CFO傘下の「経理」「予算」「税務」「財務」などのチームが連携し、説明責任をしっかりと果たすことが重要なのです。

参考文献
*1 Botosan, C.A., Disclosure Level and the Cost of Equity Capital, The Accounting Review; Vol.72, No.3 (July 1997), pp.323-349.
*2 須田一幸編著『ディスクロージャーの戦略と効果』森山書店、2004年12月

※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。