総務部のD部長は、フロアの隅でE社労士と面談中だった。AとBはD部長を見つけてズカズカと近寄っていったので、2人に気付いたD部長はあわてて話を止めた。

「一体何の用だね? 今Eさんと打ち合わせ中だから、話は後にしてくれ」

 しかしAは構わず訴えた。

「休みがない会社なんて我慢できません。日曜日はもう、会社に来ませんから!」

 そしてこれまでの経緯を勝手に話し始めた。D部長は再三話をさえぎろうとしたが、E社労士は「最後まで話を聞かせてほしい」と言った。

求人しても応募がないなら、
休日出勤はやむを得ない?

 AとBがいなくなると、D部長は頭を掻きながらE社労士に2人の失礼な態度を謝り、話を続けた。

「メンバーの補充が必要なのは承知しています。しかし求人を出しても応募がないし、新入社員も管理課に回せる人材がいません。A君とB君は課内で最もベテランなので、複数の業務を任せている状態です。だから当面は休日出勤が続くのもやむなしかと……」
「それは大変ですね。しかしこの場合、会社は最低でも法律通りの休みを取らせる必要があります」

<法律で定める労働時間と休日>
○ 使用者(事業主や管理者など)は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない(労働基準法32条)
○ 使用者は少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与える義務がある(労働基準法35条)

 D部長はE社労士に尋ねた。

「しかし、C課長は別として、A君とB君には日曜に出勤した場合は休日出勤手当、その他休日に出勤した場合は残業代(時間外手当)を支払っています。それでも休ませるんですか?」

参考:東京労働局「しっかりマスター労働基準法・割増賃金編」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf

「確かに法定休日や法定外休日に仕事をさせた場合、相応した手当の支払いが必要です。しかし手当を払えば休日数のカウントが消えるわけではなく、あくまでも法律で決められた休日数を与える義務があります」
「じゃあ、極端な話、当社の場合は4週間のうち24日間連続勤務にして、残りの4日間を休日にする扱いでもいいんですか?」
「原則は可能です。ただし連続出勤が続くとその分過労になりやすく、従業員の心と体の健康に支障が出る、業務中のケガが増えるなど、労災の原因になりかねません。会社は社員に対して安全配慮義務を負うので、それを踏まえると最低でも週1日は休むのがいいでしょう」

参考:労働契約法5条「労働者への安全配慮義務」
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする