「みんなの物語」が生まれる「問いの仕組み」をデザインする

──なるほど、端的でわかりやすいです。

佐宗 「ミッション・ビジョン・バリューを策定したいんです」というように、全部をいっぺんに策定したいという相談もよく受けるんですが、必ずしも全部を揃える必要はなく、その組織ごとの課題に合わせて優先順位を考えるべきだと思っています。企業再生などでまったく違う組織に生まれ変わりたい場合は、ゼロから理念を策定し直すことも必要ですが、そういうケースは限られているでしょう。ですから僕は必ず「御社の課題は何ですか?」と聞くようにしています。たとえば、スタートアップや成長企業で、目指すべきゴールをもっと高くしたいという課題がある場合は、ビジョンとミッションを見直していけばいい。

 あるいは、「ミッション・ビジョン・バリュー」の3つの理念がぼやけてきたときに「パーパスの策定をしたい」という相談もあります。パーパスとは、「私たちの組織が存在する目的はなにか?」という根本的な問いに対する答えです。パーパスを必要とするのは事業が多角化している大企業に多くて、人間でいえば40~50歳ころ。本の中では「中年の危機」に喩えています。成長が一段落して、グループ全体がバラバラになってしまっているというのが、よくあるケースです。

 でもパーパスって、抽象的で実効性のない概念になりがちなんです。ですから、いきなり「パーパスを作りたいです」と相談してくる案件は要注意だなと僕は思っていて、いつも頭の中でアラームを鳴らしながら話を聞いています(笑)。

──パーパスだけつくろうとしても、そこにいたるまでの物語を社内で共有できなければ無意味だと?

佐宗 そういうことですね。ですから、「私たちの組織が存在する目的はなにか?」という問いにもとづいて、それぞれの事業部のナラティブをまとめた結果、ひとつの言葉をパーパスとして策定するならいいんです。けれども、いきなりひとつの言葉をつくって、それぞれの事業部でワークショップをしてもあまり意味がありません。

 ですから僕は必ず、各事業部でナラティブを語り合ってもらうワークショップをしたうえで、最終的にコピーライティングでパーパスを策定するようにしています。組織のメンバーがその言葉をつくり出した物語を共有している状況だと比較的うまくいくので、いつもそのように提案していますね。これから生き残っていく企業に必要なことは、そうした「みんなの物語」を生み出すための「問いの仕組み」をデザインすることなのです。

(次回に続く)

※本稿は『理念経営2.0──会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』(ダイヤモンド社)の著者インタビュー・全4回の第1回です。

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