各業界のトップランナーらが絶賛する名著『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』著者で、戦略デザイナーの佐宗邦威さんが代表を務めるBIOTOPE主催で「VISION-DRIVEN SUMMIT #1」が開催された。初回の対談ゲストは、マサチューセッツ工科大学教授で、MITメディアラボ副所長でもある石井裕氏。
アカデミアの最前線で「ビジョン駆動型の研究」を推進してきた石井氏は、ビジネスの領域でも「ビジョン・ドリブン」というアプローチが注目されていることを、どのように捉えているのだろうか? 各界トップランナーたちが絶賛する名著『直感と論理をつなぐ思考法』でも触れられていた、妄想を人に伝わる「言葉」に変換する手法について、お二人に存分に語ってもらった。(構成/高関 進)

【MIT教授×戦略デザイナーが語る】話が長いのに伝わらない人がまずやるべきトレーニングPhoto: Adobe Stock

※前回までの対談はこちら
●どれだけ優秀でも「哲学」がない人が行き詰まる理由
●他人の山を登ってばかりの人、自分だけの山をつくれる人…考え方の決定的な違いとは?

思考を「凝縮」するスキルが問われている──芭蕉力

佐宗邦威(以下、佐宗) 先生はプレゼンテーションでも日常の言葉でも、とにかくメタファーがすごくたくさん出てきますよね。あとワークショップなどでも「それを四字熟語で表現してください」とよくおっしゃっていました。

 新しいコンセプトを考えるときに、こうやって「見立て」や「メタファー」を考えてみるというのは、思考を凝縮するうえで、効果的なアプローチだなと実感しています。

 ただ、たくさんのビジネスマンの方々と接していて、こういう思考法が得意ではない方が多いというのも事実です。よい見立てやよいメタファーをつくるには、どんなところに注意すればいいんでしょうか?

石井裕(以下、石井) 詩人になることです。ですから詩や文学を読みまくる、あるいは映画を観まくることです。私は文学が持っている凝縮抽象力のことを「芭蕉力」と呼んでいます

 文学や映画に書かれたテーマを必死に自分の中で噛み砕いて、ダイジェストにする。それを下手でもいいからやってみることです。そうすれば「芭蕉力」が磨かれて、見立ての引き出しは増えていくでしょう。

佐宗 たしかに、ビジョンがなかなか伝わらなくて悩んでいる人にとって、文学や映画、アートに触れる時間は、ブレークスルーにつながりそうですね。

石井 裕(いしい・ひろし)
マサチューセッツ工科大学 教授/MITメディアラボ 副所長
日本電信電話公社(現NTT)、NTTヒューマンインタフェース研究所を経て、1995年、MIT(マサチューセッツ工科大学)準教授に就任。1995年10月MITメディアラボにおいてタンジブルメディアグループを創設。Tangible Bits(タンジブル・ビッツ)の研究が評価され、2001年にMITよりテニュア(終身在職権)を授与される。国際学会 ACM SIGCHI(コンピュータ・ヒューマン・インタラクション)における長年にわたる功績と研究の世界的な影響力が評価され、2006年にCHIアカデミーを受賞、2019年には、SIGCHI Lifetime Research Award(生涯研究賞)を受賞。

最高のアートを味わい尽くすと「次の世界」が見えてくる

石井 佐宗さんがご著書『直感と論理をつなぐ思考法』のなかで言及していた「右脳で考えるドローイングのエクササイズ」もまさにそれです。こうやって視点を変えながら表現することはすごく大事ですね。

【MIT教授×戦略デザイナーが語る】話が長いのに伝わらない人がまずやるべきトレーニング直感と論理をつなぐ思考法』より。左脳で考えるクセを抑えるうえでは、絵画を逆さまにして描き写してみると効果的。図はピカソのデッサン画を模写している様子。同書ではこのようなメソッドが膨大に紹介されている。

佐宗 ノーベル賞受賞者をリサーチすると、アートが趣味である人の割合が非常に高かったそうです。文学表現もそうですし、絵画や映画といったアートは、新しい発想、新しい見立て、新しい物事の見方のパラダイムをつくるうえで、かなり大事なピースなんだと思います。

石井 「モナリザ」のような絵を多くの人が観ようとするのには、何か理由があるはずです。それが何なのか、自分にとって何が大事なのかを問うてみると、次の世界が見えてくるはずです。

 まずは最高のアート作品、最高のアーティストの表現を見まくり、読みまくり、「どうしてこの絵がこんなに気になるのか? いままでは素通りしていたのに、なんでいまこの絵を何分も見ているのか? 何かそこにあるはずだ。それは何だろう?」と自分に問い、それを記録することです。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー 大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』などがある。

あなたのお墓に彫る「9文字」は?

佐宗 見立てなどをアウトプットするときには「制約」があるほうがエッセンスが出てきやすくなります

 先生も「五七五にしてみましょう」とか「Twitterの140文字以内で表現してください」とよくおっしゃっていますよね。限られたフォーマットでの表現にチャレンジすることで、一気にそのエッセンスが凝縮されると思います。

石井 そのとおりです。「あなたが死んだときにお墓に彫る文字を9文字で表現してください」という質問もあります。自分の人生、自分が何やってきたかを9文字で集約するというのは、なかなかいいエクササイズになります。

 私は「出杭力(でるくいりょく) 道程力 造山力」の9文字を彫りたいと答えました。家族からは大反対されて、「そんなお墓で安らかに眠れない。あなた1人で眠って」と言われてしまいましたが(笑)。

(対談おわり)