「できるかぎりでいいよ」と言えるのが健康的な組織
佐宗 ほぼ日は行動指針として「やさしく、つよく、おもしろく。」を掲げていますよね。自分たちのBeingを定めることで、「群れの内」と「群れの外」を分けているように思ったんです。
糸井 そうですね。最近、「内」と「外」の感覚に関して、ちょっと考えはじめたことがあるんですよ。たとえば、フェスをやりますよね。そのフェスに5万人が集まったとき、そこに参加した人は、みんなどこかで「その5万人、俺が集めたんだ」って感じていると思うんですよ。だから、同じ日に2000人規模のフェスがあったことを知ると、「俺は5万人のほうにいたんだ。こっちのほうがすごいぞ」と言いたくなる。
でも一方で、2000人のフェスのほうに参加した人は、「俺はあの2000人の場に居合わせたんだ」って言いたくなる。どこか主催者的な感覚を持つようになって「5万人フェスよりも、こっちの2000人フェスのほうでよかった!」という気持ちになるんです。
佐宗 たしかにそういう感覚はわかりますね!
糸井 この感覚って大いにぼくらにも関係するところなんです。ときどき、ほぼ日手帳を持っている人同士が会議などで出会うと、「あ、ほぼ日手帳!」と喜び合うという話を聞くんですよね。ヴィトンのバッグやエルメスのバーキンだと、そんなことは聞かないでしょう?(笑)
佐宗 そう考えると「内」となるものが、かなり広くなってきますね。糸井さんの言う「群れが守れる範囲のギリギリのところ」の意味が見えてきました。
糸井 そう。ぼくはあんこが好きなんですが、よく「つぶあん派かこしあん派か」みたいな議論がありますよね。時にはこしあん派が、「つぶあんは、よく噛めばこしあんになるだろ」って屁理屈言ったりして。そんなふうに好きなものについて議論するのって楽しいし、時には「評判のわりにあの店のあんこはおいしくなかった」なんて、失敗が楽しみになるようなことまである。
こういうことをぼくらはやりたいんです。となると、失敗したときに相手に謝ることと、しょうがないメンバーも守ることの両方が必要なんです。ただ、「しょうがないメンバーも守る」といっても、お客さんを危険な目に遭わせるようなことはダメですよね。そこは定量的なコントロールが重要です。でも、それ以外は「『できるかぎり』でいいんじゃない?」って考えるのが健康的な組織だと思っています。
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。