芸人のような陽気さの
支店長にしらける子どもたち

 そうは言いつつ、ある小学校から参加応諾をいただいた。最初に電話した時の副校長の反応は全く良くなかったが、たまたま彼が休みの日に、校長が話を聞いてくれ、ちょうど職業体験に行くはずだった会社からキャンセルの申し出があったこともあり、参加の了承をいただいた。

 当日は、18人の児童を校長先生がひとりで引率してきた。副校長の「担任が引率すると休日出勤になる」という言い分も、管理職である校長自らの引率なら、校内の誰も文句を言わなかったのだろう。どの組織も、こうしてリーダーが自ら動くと話が早い。銀行だろうが学校だろうが同じことだ。

 児童らを会議室に迎え、支店長の挨拶が始まった。広報部が原文を作ってくれているので、それを読めば済むのだが、普段相手にするお客と要領が違うからか、舞い上がってしまう支店長もいる。

「みなさーん、こんにちはー!」

 芸人のような陽気さでツカミを取ろうとし、案の定失敗する。イマドキの子供たちは笑いにシビアだ。見事にお寒い空気になった。そしてこの後、この企画において最も言ってはならないことを口走るのであった。

「今日は一日銀行を見学してもらいまーす。家に帰ったらおうちの人に、M銀行でたくさんお金を預けようねって言ってくださいねー」

 私は、後方で実施記録のため写真を撮影していた。一番後ろで座っていた高学年の女子が、隣の男子にささやいた言葉を聞き逃さなかった。

「おーっと、さっそく宣伝ですか…」

「痛いねー」

 一切の修正が効かないまま挨拶が終わり、後は任せたと言わんばかりに退出する支店長。彼を見つめながら、さまざまなことを思い出す。学校との折衝も骨が折れるのだが、支店長によっても手を焼く場合があるのだ。

 例えば、前年の体験教室がうまくいったからといって、毎年の実施は約束できない。おおむね、支店長の異動は4月。着任間もない時期は、引き継ぎなどで多忙を極める。夏の職業体験実施を判断するのは、ゴールデンウイーク明けぐらいになってしまう。

 その時点で新支店長が「職業体験を実施しない」と判断すれば、受け入れを断らなければならない。支店長の方針や気分次第で職場体験を受け入れるか否か変わってしまう。そんな理由で、学校も年間行事に組み入れることが難しいのだ。

 しょせん支店は稼いでナンボであり、子供を喜ばせても本部からはプラス加点と評価されることは少ない。やっても意味がないという経営判断は、ある意味正しいのだ。私は預金担当課長になり、これまで10人の支店長に仕えたが、この企画を実施しようと自ら言い出した支店長は6人だった。

 ただし、支店運営において地域に貢献しているかどうかは重要なはずだ。地元小中学校の職業体験や社会科見学を受け入れることも一手。もっと簡単に、駅前の街頭清掃をするのもいい。振り込め詐欺撲滅を目指して、所轄警察とともに啓蒙(けいもう)活動をする。ロビーを利用して子供たちの絵画展をやる。アイデア次第で、いくらでもできよう。