子どもたちから教わる
銀行員に必要なこと

 私の子供はたくさんの仕事を選択できたはずなのに、あえて銀行員を選ばなかった。当時の私は早朝から深夜まで働きづめで、休日は持ち帰り仕事で部屋にこもりっぱなし。家族のことを顧みない姿を見ていたのだろう。銀行員という職業に、嫌悪感しかなかったらしい。銀行員生活は、決して華やかなものではない。自分の子供に認めてもらうのが目的ではないとしても、働く姿を否定されるのは、正直いってつらいものがある。

 体験学習が、終わりに近づき、質疑応答を受けたときの児童の質問。

「銀行員になるためには、どんな勉強が必要ですか?」

 毎回といってよいほど同じ質問を受けるので、あえてこちらから問いかけてみる。

「あなたは、銀行員に必要なものは何だと感じましたか?」

「ええっと、お金の計算をするから計算が早くて、間違えない人がいいと思います」(正確さ、迅速さ)

「他の人のお金を預かるから、悪いことをしない人がいいと思います」(誠実さ)

「いらっしゃいませ、ありがとうございましたと言える人がいいと思います」(丁寧さ)

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 子供の視点や感性の鋭さに感心した。正確さ、迅速さ、誠実さ、丁寧さ。どれも人事評価における評価軸とされる資質と合致するからだ。それを踏まえ、私はいつもこう答える。

「銀行員に必要なもの。それは、他人の話をしっかり聞けることです」

 今になっても悔やんでいる。若い頃、私は営業成績を上げたい一心で、誰の話にも耳を傾けることなく、ひたすら自分を売り込むことで頭がいっぱいだった。そして今、子供たちから意義深い気づきをもらっている。子供たちが、別の意味で1億円の重さが分かる日も来るだろう。だが、お金よりも大事なものがあることだけは、覚えていてほしい。

 こうして私は、毎日この銀行で働く。悲しみも喜びもあった。この銀行に感謝しながら、子供たちの来店を楽しみにしながら、今日も懸命に働く。

(現役行員 目黒冬弥)