「でも、そんな難しいボキャブラリーを知らなくても、実際の生活ではそんなに不便を感じていない」。そう反論する人もいるかもしれません。たしかに、気心が知れている仲間うちでのやりとりなら問題ないでしょう。しかし、社会生活を営んでいくためには、それだけでは不十分です。

 むしろ、今ほど語彙力が問われている時代はないと思われます。ネットの発達によって、私たちはメールやSNSのメッセージで情報交換をする機会が増えました。仕事上のやりとりはもちろん、日常的なおしゃべりからネットを通じた売買まで、当事者が直接顔を合わせることなくメールやメッセージで進めることが多くあります。その場合、コミュニケーションの中心は文章です。

 面と向かっての会話なら、ことばの抑揚や表情で感情を伝えることができますが、文章ではそうはいきません。情報それ自体はもちろん、感情もまた文章だけで伝えなくてはならないのです。

 そこでよく問題になるのは、本人は謝罪の気持ちを表したつもりでメッセージを送ったのに、相手にその気持ちがうまく伝わらないといったケースです。それどころか逆に皮肉と受け取られて、かえって事態を悪化させたという例も耳にします。同じような意味を持つことばでも、微妙なニュアンスの違いがあり、それを使い分ける語彙力がないと、うまくコミュニケーションが成立しなくなってしまうためです。

 ところが、従来の辞書の多くでは、ことばの意味を詳しく説明してくれるものの、そこに込められたニュアンスまではなかなか教えてくれません。そこで本稿では、単にことばの意味を説明するだけでなく、どのような場面で使うのが適しているのか、そしてことばの裏に込められたニュアンスや使用上の注意も含めて解説することを心がけました。また、すぐに使える実用的な例文も紹介しています。

感謝・お礼のことば
「深謝いたします」

図_感謝・お礼のことば「深謝いたします」画像提供:本書より 拡大画像表示

「謝」は不思議な漢字です。「感謝」「謝礼」といえばありがたい気持ちを表し、「謝罪」「謝る」といえばお詫びをするという正反対の意味になります。もともとは「ことばを使ってやりとりをする」という意味があったようで、組み合わさる漢字が「感」や「礼」ならばありがたい気持ちを、「罪」ならばお詫びの気持ちを示す熟語になるわけです。