作戦その2:
暗号化してパスワードが伝わらないようにする
データを消すことはできなくても、ストレージやフォルダー単位で暗号化しておき、そのログインパスワードが誰にも伝わらないようにするといった籠城策もある。自分しか開けられない扉を作って、その鍵もろとも墓に入る。扉は見つけられるかもしれないが、誰も中には入れない。
Windowsの上位エディションなら「BitLocker」、Macなら「FileVault」を使えば、ドライブ単位の暗号化が可能だ。スマホはそもそも端末全体が暗号化されているので、パスワードが分からなければログインして中身を確かめることができない。そのほか、外付けハードディスクやNAS、USBメモリーなどにも暗号化機能を備えたモデルがある。
単純に隠したいデータを見られにくい状況にするなら、これがもっとも手軽で汎用的な方法といえるだろう。しかし、その手軽さがかえって仇(あだ)となる場合もある。
会社を経営する50代の夫を急死で失ったという女性から相談を受けたことがある。女性は夫が残したiPhoneのパスワードが分からずに非常に困っていた。直近まで取り組んでいた仕事のやりとり、金融資産のデータ、サブスク契約などがすべてスマホに詰まっている。家族で撮った写真などもたくさん保存されているから、何とか取り出したいと話していた。
その男性はAppleのクラウドツール「iCloud」の大容量プランを利用していたので、そちらにアクセスする方法を取ることで事なきを得たが、iCloudにほとんど情報が残っていなかったら女性はもっと苦しい思いをしたはずだ。
デジタルデータの中には、相続や財産整理、仕事の引き継ぎや共有すべき思い出の写真など、残された側が必死に探そうとするものもある。それらを暗号の扉に閉じ込めてしまうと残された側をとても苦しめるし、一緒に隠したいデータも保管している場合は発見されるリスクが当然跳ね上がる。
暗号化を利用する際は、日頃から託すべきものと隠すべきものを把握しておき、きちんと管理する場所を分けておくこと。そのうえで、隠すべきものだけに鍵をかけるといった心配りが重要だ。