「渡り鳥の群れ」のメカニズムとは?

 では、企業理念の具体的な概念である、ビジョン・バリュー・ミッション・パーパスの内実をそれぞれ説明します。

 個人的に、これら4つの概念の定義は、「渡り鳥の群れ」のメカニズムになぞらえて考えるとわかりやすいと思っています。

 というのも、いまの会社は、メンバー各自の多様な人生観や最適な働き方を尊重しつつ、全員が協働して共通のテーマに取り組むための「一体感」も維持しなければならないという難題を抱えています。

 そこでヒントになるのが、渡り鳥の群れ方です。渡り鳥は、個体としてはみんなバラバラなのに、特定の目印がなくても群れとして飛んでいけますよね。それが可能なのは、以下の3つの感覚があるからだと言われています。

方向感覚…最終的にどの方向を目指して進むのかがわかっている感覚
距離感覚…他の鳥との適切な距離をとる感覚
中心感覚…飛んでいる群れの中心に向かう感覚

「将来性がない会社」に共通する“ざんねんな特徴”ワースト1

 これら3つを企業理念の概念に当てはめて考えてみましょう。

 まず、方向感覚は「ビジョン」に相当するといえます。自分たちが究極的に何を目指して進んでいくのか、つまり「私たちがつくりだしたい社会はどんな景色か」という問いに対する答えがビジョンだからです。ビジョンが定まれば、新規事業への推進力やイノベーション力が高まり、パートナーを巻き込みやすくなります。

 次に、距離感覚は「バリュー」に当たります。これは、仲間と衝突せずに協働するための共通の取り決め、つまり「自分たちが他の集団と違って、こだわりたいことは何か」という問いに対する答えです。バリューを定義することで、「他とは違う自分たち」という意識が生まれて、組織の中の一体感が高まり、組織文化を生み出すことができます。

 中心感覚には、「ミッション」が当てはまります。これは、自分たちが様々な取り組みを行なう上での、「中心的な活動は何か」ということです。ミッションが明確化されると、多様性を持った組織において「何を優先すべきか」という中心軸がはっきりします。

 そして、ミッションの延長線上にあるのが「パーパス」だと考えています。これは、「私たちの組織の存在目的は何か?」という問いに対する答えで、ミッションを社会の側から捉え直したものです。

 一方で、パーパスは「未来の社会で自分たちはどんな役割を果たしたいか」ということも表現できます。なので、「方向感覚」の機能、つまりビジョンのように目指すべき方向を示す「北極星」のような役割も持っています。

「将来性がない会社」に共通する“ざんねんな特徴”ワースト1


 実際、企業理念をうまく活用して成功している会社があります。

 代表的なのはメルカリです。今年2月に新たに発表された同社のミッションは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」。バリューは有名ですが、「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」の3つです。彼らは、ミッションとバリューを中心にした経営をしていて、意思決定の際は、必ずこの2つの理念を参照するそうです。

 ミッションやバリューという「会社独自の思想」が経営に根づいているからこそ、大胆かつ軸のブレない意思決定が下せます。わかりやすく言うと、「他の会社がやっているからうちもやってみよう」ではなく、「自分たちはこういう価値観を大事にしているからこれをやろう」という発想で行動できるということですね。

(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『理念経営2.0』刊行記念セミナーのダイジェスト記事です。「The Salon」の公式X(旧Twitter)はこちら