世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、ヘーゲルの『歴史哲学講義』を解説する。

従来は歴史は出来事のつながりであると考えられていた。しかし、実は歴史がある一定の法則に基づいて目的をもって展開しているという……。この思想は、後に世界は共産主義社会という目的をもっていると解釈されなおすなど、現代社会に大きな影響を与えている。

読破できない難解な本がわかる本Photo: Adobe Stock

世界史に初めて法則性を与えた書

 歴史は予測不可能な出来事のつながりに思えます。

 しかし、ヘーゲルは歴史の流れにある一定の法則があると考えました。現代の一部の物理学者は、世界がホログラム的な仕組みをもっていると考えています。

 ヘーゲルはその考え方を先取りするかのように、世界が一つのプログラミングされたパッケージであり、それが少しずつ時間に沿って展開されていく現象が歴史なのだというようなことを説いたのです。

 この宇宙の原理を、ヘーゲルは「絶対精神」と呼んでいます。歴史とは、この絶対精神が自己の本質を実現していく過程(自己展開)にほかならないというのです。

「哲学が提供する唯一の思想は、理性が世界を支配するということ、したがって世界史においてもまた一切は理性的に行われて来たという、単純な理性の思想である」(同書)
「絶対的な究極目的であるとともに、またそれ自身その究極目的の実現でもあり、それ自身が究極目的をその内面から……世界史の中で……自然界、並びに精神界の現象の中に実現するところのものでもある」(同書)

 つまり、宇宙の情報が、そのロジックに従って、刻々とゲームのように小出しにされていくということです。

 そしてまた、その根本原理は無制約の(制限を受けない)存在なので、「自由」と表現されます。

 世界史の目的とは理性的自由が時間的に歴史として、次第に実現されていく過程ということになるのです(自由の実現が目的ということ)。

 世界史を概観してみますと、民衆の自由が実現されていくことがわかります。これは偶然ではなく、ちゃんと法則にのっとった動きをしているということなのです。

世界史は弁証法というルールで展開する

 歴史とは「自由の意識における進歩」であり、これをヘーゲルは段階的にまとめています。

 ①王のみが自由な古代の段階
 ②共和国において一部の人々が自由になる段階
 ③ゲルマン諸国において人間の自由が実現していく段階

 ゲルマン諸国における自由の自覚とは、ヘーゲルの生きていたリアルタイムの時代です。この自由の原理によって、国家の組織をつくりあげていくこと、それが歴史の到達すべき目標です。

 さらに、この世界の公式・ルールともいうべきものが「弁証法」です。弁証法とは、認識と存在の根本原理なので、すべての存在は弁証法から漏れることなく、この法則に従って展開します。

 すなわち、すべてのものは「即自」「対自」「即自かつ対自」という3つの段階をへて弁証法的に展開していきます。

 弁証法は、次の三段階の公式になっています(認識の弁証法の例)。

 ①ある対象を規定して、固定化し固執する段階(例:植物がその全体を表現している)
 ②その規定されたものが一面的であったとわかる段階(例:植物が養分・水を必要とするなど新しいことがわかる)
 ③対立する2つの規定の総合によって、対象の理解が促進される段階(例:それがそれでない存在とともにあるという、全体が理解される)

 歴史は、①ある安定した段階で、②矛盾が生じ、③次の時代に入る(例:絶対王政・革命・民主国家など)という三段階で展開されます。

 また、ヘーゲルによると歴史の発展段階をになっている代表的な偉人も、歴史の目標を実現するための手段(道具)として登場します。

 ナポレオンのような英雄は、いわばあやつり人形にすぎず、一定の役割がすめば没落するとされました。

 今では、歴史の法則性という考え方は古いように思われていますが、もしかしたらそれもアリかもしれません。