これらは次第に集約されていくと思われるが、せっかくの新しい乗り物の名前が不確かでは利用者も戸惑うし、親しみも湧かない。当事者としてはどのように呼んでほしいのか宇都宮ライトレールに問い合わせ中だが、本稿では北総線、新京成線など1路線のみの私鉄が社名+線と表記されることに倣い「宇都宮ライトレール線」と称することにしよう。
宇都宮市がLRT計画に
乗り出した背景
そもそも表記ゆれを招くのは、「LRT」や「ライトレール」などの用語が一般的に認知されていないことも影響しているだろう。LRT(Light Rail Transit)なる用語は、ニュースで「次世代路面電車」と呼ばれることが多いが、必ずしも路面電車を指すものではない。
大都市における郊外と都心の連絡は、地下鉄を中心とする都市高速鉄道が担うが、中小規模の都市では輸送需要に対して建設費が過大だ。そこで路面電車より大きく鉄道よりは小さい車両を用い、必要に応じて路面も走ることで、郊外と都心を安価に結ぶ「軽量軌道交通」という思想のもと発展した交通機関がLRTだ。
人口約50万人の宇都宮市は東北新幹線、JR宇都宮線、東武宇都宮線が南北に走っているが、東西の交通はバスと自家用車に頼っており、工業団地が立ち並ぶ東部の渋滞と、ロードサイト店舗化による都心の空洞化が問題になっていた。そこで宇都宮市は1990年代以降、東西基幹公共交通の検討に乗り出し、2000年代に入るとヨーロッパのLRTブームに影響される形で計画が具体化していった。
その後、隣接する芳賀町も計画に参加し、2013年に自治体と国土交通省、鉄道・バス・タクシー会社が参加する「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」が設置された。2016年に都市計画の決定と、軌道敷設の特許を取得するための「軌道運送高度化実施計画」が認定され、2019年の開業に向けて整備に着手した。
しかし国内初の新設LRTであり、協議や調整に時間を要したため、2022年3月の開業を予定して着工。工事の遅れで2度の延期を経て今回の開業となったわけだが、その経緯については、すでにさまざまな記事で触れられているため、本稿では省く。
宇都宮ライトレール線は14.6キロのうち、LRTのみが走る区間が約5.1キロ(平石停留場手前から清陵高校前停留場付近)で、自動車と路面を共用する区間が計9.4キロだが、この中には路面上を走りながら道路と線路が柵で分離された区間も多い。
自動車と道路を共有する軌道、いわゆる路面電車の最高速度は時速40キロに制限されているが、宇都宮ライトレールは将来的に、安全が確保できる区間では特別な認可を得ることで、LRT専用区間を時速70キロ、併用区間を時速50キロに向上させて時間短縮を図る計画だ。