ナチュラルなプロパガンダ臭
しかし今は確かに「日本の危機」
「政府色を消した」プロパガンダでわかりやすいのが昨年、中国で記録的ヒットとなった映画「1950 鋼の第7中隊」だ。これは朝鮮戦争を題材にした中国共産党の反米プロパガンダ映画とみられているが、劇中で描かれるアメリカ軍はそこまで「悪」として描かれていない。しかも、監督は「男たちの挽歌」シリーズや「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」で知られるツイ・ハークら3人で、巨額の制作費が注ぎ込まれている。
つまり、「娯楽映画」として完成されているので、中国の人々は「共産党の世論操作では」などというネガ感情を抱くことなく、純粋に楽しみながら愛国心が刺激される。
過度に仮想敵国をおとしめたり、政府をヨイショしたりしないという「自然さ」を打ち出すのが近年のプロパガンダ映画の特徴なのだ。
そんなナチュラルなプロパガンダ臭は『VIVANT』からも漂ってくる。主人公が自衛隊の秘密組織「別班」というこれまでの日曜劇場にない設定だが、あからさまな「自衛隊のPR」という雰囲気はない。むしろ、規格外の予算、豪華キャストで「超娯楽作品」として仕上がっている。
だが、『VIVANT』にハマれば確実に愛国心は刺激される。「日本を守る」ことに命をかける堺雅人さんや松坂桃李さんの演じる「別班たち」の活躍を見れば、「自衛隊かっこいいな」と感じる少年少女もいるはずだ。一般人の自衛隊への理解も深まる。
ネットやSNSでは「別班は実在するのか?」という議論で盛り上がっている。これまで「被災地の救助活動」ばかりに注目されていた自衛隊の「国防」「国家の脅威を排除する」という「本業」に、一般国民の関心がここまで集まるのは珍しい。
毎週ハラハラ、ドキドキとドラマを楽しみながら、愛国心と国防意識が高まるという理想的なプロパガンダになっているといえる。
「妄想乙、そもそもTBSのドラマ制作スタッフが愛国心を刺激しなきゃいけない理由なんてないだろ」と嘲笑する人も多いだろうが、ちゃんとある。「日本の危機」を回避するという「国益」のためだ。国から免許をもらっているテレビ局としては、どうしても国益にかなう啓発・啓蒙に協力をしなくてはいけないのだ。