車椅子が垂直移動するにはエレベーターしか選択肢がない。ところがエレベーターは健常者が我先にと乗り込むため、なかなか乗れない。後ろから追い抜かれることもしばしばという。そんな日常の不条理に言及したのが「バズった」ツイートだった。
さしみちゃんは別に「告発」するつもりなどなかったそうだ。単に「エレベーターでしか移動できない人を優先的に使わせてほしい」という至極まっとうな思いを、怒りを込めて書き込んだだけだった。ところがこのツイートが爆発的に拡散されると彼女の生活は一変した。
ツイートに対する共感や同情もあったものの、大量の批判、誹謗中傷が押し寄せた。その中には彼女の人格や容姿をおとしめるものも少なくなかったが、ツイッターで改めて趣旨を明確にするとともに、さまざまなメディアにも出演し、署名を立ち上げた。
「これを炎上っていう形で終わらせたら変わらないし、ただ私がしんどい思いして終わりじゃんって思って。それと同時に(優先使用を)知らなかったって声や、私も毎日つらいですという声もたくさんあって、これは何か形にしないといけないなと思いました」
エレベーターの優先利用に
目をつぶる人たち
交通バリアフリー法はエレベーターを「車椅子使用者の単独での利用をはじめ、車椅子使用以外の障害者、高齢者、ベビーカー使用者等、すべての利用者に対して有効な垂直移動手段である」と位置付ける。
そして全てのエレベーターには「障害者、高齢者、ベビーカー使用者等が優先利用できることを示す『優先マーク』を設置する」と定めており、国土交通省は各鉄道事業者と合同で、「真に必要な方が必要な時に利用できるよう、適正な利用の推進」に向けたキャンペーンを毎年展開している。
国交省が2020年に、国土交通行政インターネットモニター1069人に対して行った調査によれば、駅などのエレベーターに張られた「優先マーク」の認知(「見たことがある」「見たことがあるような気がする」の合計)は73%、「優先エレベーターに乗っている際、障害者や高齢者など必要とする人が来たら譲りますかという」という問いには82%が譲る(「良く譲る」「ときどき譲る」の合計)と回答した。
元々、関心の高いモニターを対象にした調査であるため、世間一般より高い数字が出ていると考えると、優先マークを認知していない人はそれなりにいるのだろう。彼らに対しては引き続き啓発を強化していくしかないのだが、問題の根本はそこではない。