こうして、神(アッラー)はムハンマドに新しいメッセージを下された。このメッセージこそ、最後で、最高のメッセージだ。これがイスラムから見たキリスト教観、ユダヤ教観です。

 ですから、イスラムでは、ムハンマドに先立つ預言者たちに下された啓示も、もちろん正しい啓示として扱います。その啓示を書物にしたもの、つまり、新約聖書も旧約聖書も「聖典」として敬意を払います。そのなかで、コーランこそ、至高の啓示を書き記した聖典だというのがイスラムの理解です。

 しかしキリスト教徒の側は、自分たちの神がイスラムの神(アッラー)と同じとは認めません。イエスが福音を伝えてから600年もたって、別の「神の使徒」がアラビア半島に登場しても、「では、その人の話も聞いてみよう」などとは絶対に考えません。

 キリスト教にとって、イスラムは最初から「邪教」だったのです。このイスラム観は、中世の十字軍の時代から現代まで変わりません。19世紀から20世紀の前半まで、キリスト教が優勢だった西欧世界は、産業でも経済でも圧倒的な力をもって世界を支配し、イスラム世界の大半を植民地にしていきました。過去2世紀ぐらいのあいだ、西欧は、イスラム世界に対する自たちの絶対的優位を信じて疑いませんでした。

敵を創造し社会の分断をあおることで
キリスト教世界は内部の矛盾に対処してきた

 コロナ禍の3年間、世界ではすさまじい勢いで分断が進みました。

 村上陽一郎著『ペスト大流行 ヨーロッパ中世の崩壊』(岩波新書)には、14世紀のペスト大流行の際、ヨーロッパ各地で「キリスト教徒の敵」が感染症をもたらしたとされて、ユダヤ人がひどい迫害を受けたことが記されています。中世の西欧キリスト教世界においては、感染症の拡大が敵を探しだして罰するという「分断」を顕在化させたのです。

 そして、21世紀の今、西欧世界はまたしても同じ「分断」と「敵の創造」に突き進んでいないでしょうか。

 コロナ禍のさなかに、ロシアがウクライナを侵略したことは文字通り世界を分断しました。

 アメリカ社会では、人種差別問題が厳しく問われる事態が起きました。黒人に対する暴力が原因で、BLM(ブラック・ライブズ・マター)という人種差別反対の運動が起きたのは、トランプ政権下でのコロナ禍のさなかでした。