対話で分かる地政学#14Illustration by Yuuki Nara

地政学がわかると、世界が変わる。それぞれの悩みを抱える、架空の3世代家族は、地政学の“第一人者”である奥山真司氏らから講義を受けてきた。特集『対話で分かる地政学』(全14回)の最終回では、3人に大きな変化が訪れる。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希、監修/地政学・戦略学者 奧山真司)

「週刊ダイヤモンド」2023年10月21日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。登場人物は実在の専門家を除き、架空の設定です。本記事の物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。また、編集部による予測も含まれます。

>>プロローグはこちら

2年後、3人の世界は大きく変わる
米国、中国…世界はどうなった

2年後の2025年8月

「じゃあ、そろそろ行くね」。陸は大きなキャリーケースを携え、玄関のドアを開けた。外から熱い風が吹き込んでくる。「くれぐれも体には気を付けるのよ」。心配そうな様子で陸に言う恵に、明は「まあまあ、陸なら大丈夫じゃろう」と声を掛ける。

「陸、頑張ってくるんだぞ」。単身赴任を終え、1年前からまた同居している父はそう言って陸の肩をポンとたたいた。「うん、行ってきます~」。

 2年前、地政学を知り、陸の世界は変わった。ゲームや怪しげな情報を垂れ流すネット動画には目もくれなくなった。代わりに勉強に打ち込み、成績はすぐにクラスのトップに。高校受験では、兄も通った進学校に見事合格した。

 しかし、ほどなくして陸は中退を決めた。世界に飛び出したい気持ちが抑えられなくなったのだ。留学先も自分で米国に決めてしまった。

 陸の決断を、恵をはじめ家族は誰も反対しなかった。むしろ、留学経験のある兄や、父は大賛成だった。そして、恵も何も言わなかった。子供の学歴にこだわっていた2年前の恵だったら間違いなく強硬に反対していただろう。頼もしく成長した陸の判断には、誰も口を差し挟まなかった。

 恵も大きく変わった。陸の高校入学を機に、近所の零細企業を辞めた。そして、知り合いの紹介で、海外企業との取引がある中堅企業に入り直したのだ。