16年間の企業理念に対する想いの変化

佐宗 社員の方々との対話で青野さんの野望が引き出されて、「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる。」という言葉で結晶化されたのが、おそらく2007年頃だと思います。その時点から16年経ちましたが、その理念に込められた想いはどんなふうに変わってきましたか?

青野 2つお話ししたいことがあります。1つは、言語化が進むことによって起こった想いの変化です。最初は「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになりたい」と思っていたのですが、それに対して「なんでだろう? なんでそうなりたいんだろう」という問いが次第に生まれてきたんです。それを考えていくと、「情報が共有される組織ほど、よりよい組織である」という自分なりの思いが出てきました。

するとまた、「なぜ情報共有された組織がいいのだろう?」という疑問が出てきますから、それについて考えてみるわけです。しっかりと情報が共有される組織では、一人ひとりが主体的に物事を考えられますよね。逆に、社長しかすべてを知らないような組織だと、現場もまず社長の言うことを聞こうとしてしまう。僕は、一人ひとりが社長みたいな気持ちで仕事できる組織をつくりたいんですよね。

その結果、みんなが主体的に考えるためには「自立と議論」が大事だよねとか、嘘をつかない、隠しごとをしないために「公明正大」を大事にしようなどと、いまサイボウズで「4つのカルチャー」と呼んでいる言葉が言語化されていきました。これで完成というわけではなく、この磨き上げの作業はいまでも続いています。

佐宗 その結果、サイボウズの存在意義(Purpose)を「チームワークあふれる社会を創る」と設定なさったのですね。

青野 そうなんです。それから人数が増えたことでの変化もありました。当時、社員は100人から200人程度で、そのなかでみんなの共感を言葉として結晶化しましたが、いまは1000人を超えています。その結果、結晶が大きくなったような感触があります。よく「人数が増えると理念が薄まってくる」なんて話を聞きますが、サイボウズでは理念を重視して仕事をしており、理念に呼応して人が集まってきているので、以前よりもいまのほうが共感度が高いように感じますね。

佐宗 おもしろいですね! サイボウズさんではリモートワークも当然のこととしてやっていらっしゃいますが、ほかの企業では、リモートのせいでなかなかカルチャーが企業内に浸透しないという悩みも耳にします。青野さんはいま、サラッと「人数が増えてからのほうが、理念の結晶が大きくなった。共感度が高くなった」とおっしゃいましたが、これってかなり珍しいことだと思うんです。なぜそれができたのでしょう?

青野 理念に共感したいろんな人が入ってきて、行動を起こすことで理念がさらに共有されているからだと思いますね。

たとえば、うちでは副業(サイボウズ内では「複業」と表記)ができますが、その動きは2013年に中村龍太さんが入社してから加速しました。当時はまだ、サイボウズにおいても副業は珍しかったのですが、中村さんが入社する際に「副業できるようにしてほしい」という条件をあげてきたんです。

最初は「なんだかおもしろい人が入ってきたなあ」くらいに見ていた人が多かったのですが、中村さんがさまざまなことにトライしているうちに、「副業で人脈を広げると褒められるらしいぞ」とほかのメンバーも気づきはじめて、いまでは社員の3割に副業経験がある状態になりました。

佐宗 すごい! ここまでいくと、もはやサイボウズの文化と言ってもレベルですよね。

サイボウズ流・人が増えるほど「理念への共感度」が高まる組織づくり

(第2回に続く)