深刻化する人手不足問題。企業による人材の獲得競争が激しさを増している。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

「期待される人材像」とは

 一般に、「期待すべき人材像」とは、どのような人材のことなのでしょうか?

 多くの企業で言われていることは、おそらく次のような人材なのではないでしょうか。

・業務に必要とされる知識と技術を有している
・指示がなくとも、問題を発見して、迅速な対応ができる
・自ら進んで情報を収集し、的確な判断ができる
・緻密で効率的な計画を立案し、それを遂行することができる
・何事も前向きにとらえ、ピンチをチャンスに変えることができる
・難しい仕事、他人がやりたがらない仕事を自分の出番に変えることができる
・困難に対しても、あきらめずに取り組み続けることができる
・広い視野を持ち、他人の仕事にも積極的に支援する
・仕事を通して夢を持ち、仕事を楽しんでいる
・健康で、いつも明るく元気である
・顧客から信頼を得ている
・常に他の社員の見本として行動している
・その人がいるだけでまわりがやる気になる

 企業の人材募集要項には、必ずと言っていいほど「期待される人材像」が掲げられています。

 しかし今までは、多くの企業において、「期待される人材像」とは、その時々の企業の状況に合わせた一時的なものにすぎませんでした。

 ですから、毎年のように期待される人材像が変わってしまう企業もあったほどです。

 ところが、期待される人材像が変わったからといって、一度採用した人材を簡単に解雇することはできません。

 とすれば、社員一人一人が期待される人材に変わっていくしかない、ということになります。しかしこれは、社員にとっても、それを推進する企業にとっても容易なことではありません。

 それでは、「期待される人材像」について、どのように考えればいいのでしょうか。

 そもそも「期待」とは、いったい何を期待するのでしょうか。それは知識や能力なのでしょうか、それとも考え方や行動パターンなのでしょうか。

「期待される」ことには、環境の変化とともに変わらなければならないものと、どのような環境であろうとも変わってはならないものがあります。それは、期待される「能力」は変われども、期待される「姿勢」は変わらないということです。

 社会に価値と感動を提供するために、求められる知識や能力は環境の変化に応じて、日々変わっていきます。

 いや、変わらなければならないと言ったほうがいいでしょう。

 その一方で、どんな環境でも変わることがない「期待される人材像」とは、社会に貢献する企業のビジョンを、共に実現しようという共感者であるということです。

 知識や能力を身につけていくためには、それらを無理やり教え込んでも効果は薄く、本人が自発的に身につけていくことが不可欠です。

 そして共感者であれば、必要に応じて求められる知識や能力を自発的に身につけていきます。

 つまり、「期待される人材像」とは、「社会に貢献するビジョンの達成のために、自ら求められる知識や能力を身につけて、それらを最大限に活かすことができる人材」ということになります。

 共感者は、自分の安楽のために行動することはありません。

 共感者にとってみれば、企業の中での自分に対する評価よりも、どれだけ自分がビジョンの達成に貢献できるかが重要になります。

 そのために、企業の中だけで通用するような考え方や能力ではなく、社会に価値と感動を提供するために必要な考え方や能力を身につけるようになります。

 そして、そのような社員が増えるほど、その結果として、企業は成長していくことができるようになるのです。

 社会貢献できる人材が成長できてこそ、企業も成長することができます。つまり人材育成とは、企業の中だけで認められるような会社人ではなく、社会で認められる社会人を育成するということです。

 企業人としてよりも、社会人として、人間として「期待される人材」を育成していくことが、結果的に企業を成長させることになるのです。