安定した勤務医を辞めて
開業するメリットとは?
松永医師は、開業医のメリットの一つに「自分の時間が持てること」を挙げている。勤務医時代は夜勤や緊急呼び出しも多く、ちゃんと休めるのは年に2~3日だったそうだ。
一方で、開業医になれば自分で休みを決められる。松永医師は本書以外にも多数の一般書を上梓しているが、開業医になり、自分の時間を有意義に使えるようになったおかげで執筆時間を確保できたという。
また、松永医師が尊敬する小児外科医は、医療ばかりに100%の時間を割くのではなく、趣味であるイタリア文化の研究や銅版画の制作にも情熱を注いでいたとのこと。そうした多方面への興味や活力は、医療にも生かされていたはずだと松永医師は推測している。
本書によると、その理由は「人としての力の根が太く強くなる」からだという。
毎日同じ患者を治療するのならばいいが、さまざまなケースに臨機応変に対応したり、新しい発想で困難を解決したりするときには、そうした「人としての力の根」が効力を発揮するというのだ。
松永医師も執筆活動などを通じて「根」を養ってきたからこそ、前述したトラブルを乗り越えて地域住民に愛され、17年間もクリニックを継続できているのかもしれない。
最後に、冒頭で触れた「どれくらい稼げているのか」という点に言及しておく。「開業医は儲かるのでは」という疑問に、松永医師は「本音」で答えている。「儲かる」と。
コロナ禍前には、勤務医時代の3倍以上の収入があったそうだ。だがその半面、自身が大病にかかり入院することにでもなれば、開院ができずスタッフが困り果てることになる。もちろん、他業種の個人事業主と同じく、身分は不安定で退職金もない。「儲かる」半面、そうした不安も付きまとうのだ。
とはいえ、しっかりと「責任」を保ちながら「自由」を生かすことのできる開業医。クリニックを受診する際は、本書の内容をもとに、その裏事情に思いをはせてみるのも一興だ。
(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)