ただし、ヨーロッパに旅立った選手たちの全員が鹿島に戻ってきたわけではない。ごくわずかなケースだが、タイミングや条件が折り合わず、Jリーグの別チームを復帰先に選ぶ選手も存在する。
タイミングや条件が合わなかった鹿島出身選手の例として、前ブレーメンのFW大迫勇也(現ヴィッセル神戸)や前バルセロナBのFW安部裕葵(現浦和レッズ)が挙げられる。
戦力がそろっているから
優勝できるわけではない
それでも鹿島を選んだ柴崎は、自身の移籍を含めて「個人の思い、といったものだけでは成り立たない」と振り返る。
「このタイミングで鹿島アントラーズが僕を必要としてくれた。双方の思いがタイミングよく合致したからこそ成り立ったと思うし、そうなってよかったと心の底から思っている」
いずれにしても、ヨーロッパから復帰した選手を中心にすえる、新しいチーム作りの段階を迎えている鹿島は、頭ひとつ抜け出すための強さをいまだに身にまとえない状況のなかでもがき苦しんでいる。
そして柴崎は悔しさを押し殺しながら、神戸戦後にこう語っている。
「(不振の)理由がわかっていたら苦労はしませんよね。ただ、戦力がそろっているからといって優勝できるわけでもなく、逆に個々がそうではなくてもやり方によっては優勝争いに食い込める時代というか、そういうレベルになってきたなかで苦しんでいる」
「それでも何かが劇的に変わるのではなく、メディアやファン・サポーターのみなさんには見えないところでの、自分たちの日常からの小さな努力の積み重ねでしか現状は変えられない。地道な作業が足りなかった、という点が今日の試合でも表れたと思うし、それらを真摯(しんし)に受け止めて、より向上していく気構えを保ち続けていかなければいけない」
だが冒頭で述べた通り、柴崎は神戸戦で左ハムストリング筋を損傷。今シーズン中の復帰が絶望となった。柴崎は神戸戦後に「100%でプレーできない。なかなか心苦しい状態にある」と明かしており、今は誰よりも忸怩(じくじ)たる思いを募らせているだろう。
獲得した国内外のタイトル数を、他のクラブの追随を許さない「20」に到達させてから鹿島の足踏みが続く。国内2冠を獲得した16シーズンの前回黄金時代を知る昌子や植田、鈴木、そして柴崎らの復帰組を中心に、いまは胸中に渦巻く悔しさや無念さを常勝軍団復活へののろしに変えるしかない。