ガンバ大阪に誘われたエースに
「おめでとう」のワケ
夏の移籍期間を迎えて、福岡のエースストライカー、山岸祐也にガンバ大阪から獲得のオファーが届いたときだった。監督室に呼ばれた山岸は、いい意味で指揮官に裏切られている。
「何を言われるのかな、引き留められるのかなと思ったら、監督は真っ先に『おめでとう』と言ってくれたんですよ。しかも『超』の付く笑顔で『オファーは祐也が評価されている証しだから』とも。その言葉を聞いたときに自分の心をグッとつかまれたというか、この人はものすごく大きな器の持ち主だなと。もともと信頼していましたけど、そのときを境にさらに厚い信頼関係が生まれました」
福岡残留を決めた山岸は昨シーズン、最終的にチーム最多の10ゴールをマークした。山岸は今シーズンも福岡でプレーを続け、すでに10ゴールをマーク。J1の得点ランキングで10位につけている。
モンテディオ山形から20年夏に加入した山岸は、長谷部監督に対して「選手から寄せられる信頼感は本当に厚い」と言及しながら、キャリアのなかで見聞きしてきた他のクラブの内部状況と比較する。
「僕が福岡に来てから、悪口も含めて、シゲさん(長谷部監督)のことを何か言う選手を見たことがない。他のクラブは誰かしらが何かを言っているし、何て言うんですかね、そういうクラブは強くならないし、もちろんいいチームでもない。3年もの間、それを言われないシゲさんは言葉で言い表せないくらいすごい。僕たち選手に対していつも真摯に、しっかりと向き合ってくれるし、話もよく聞いてくれる。そういうチームマネジメントを含めて、シゲさんのすごいところは数え切れないほどあります」
そんな長谷部監督だが、実は頑固者でもある。曲がったことを忌み嫌う性格の持ち主と言うべきだろうか。
それを象徴する異例の光景が、22年9月の名古屋グランパス戦で繰り広げられた。
福岡が前半21分に1-1の同点に追いつくゴールを決めた直後。ホームのベスト電器スタジアム(福岡市博多区)が騒然となった。
当時福岡に在籍していたMFジョルディ・クルークス(現セレッソ大阪)が、接触プレーによってピッチ上で倒れた。それを受けて、名古屋の選手が意図的にボールをタッチラインの外へ蹴り出した。福岡側がクルークスの状況を確認できるよう、あえて時間を取ったのだ。名古屋側のフェアプレーである。
幸いにも倒れたクルークスに異常はなく、試合は福岡のスローインで再開された。こうした状況では本来、福岡はボールを保持して攻めるのではなく、ボールを名古屋側へ渡してから試合を再開するのが紳士協定となる。フェアプレーに対して感謝の意を示しているわけだ。
しかし、名古屋のゴールキーパーに向けて投げ入れられたボールを、福岡のブラジル人FWルキアンがカット。ゴール前にクロスを送った。すると、うつ伏せに倒れていた関係で、名古屋がボールを意図的に蹴り出した場面を含めて、一連のやり取りを見ていなかったクルークスが同点ゴールをたたき込んでしまったから大変だ。