そうした具合で進行していったが、後半からひずみが表面化してきて、「歌って」と泣き出す客や、話すことを促された客の1人が10分くらい喋る謎の時間などがあって、不満を表明しながら帰る客が続出し始めた。街中の小さなライブハウスではなく、2000人規模の大ホールでこの展開は異様である。そして氏は帰る客に申し訳なさそうにしながら、その雰囲気のままライブを完遂したとのことであった。

 これがSNSで伝えられると「演者として度し難い」という批判の声、「演者は自分のステージを自由に作っていいはず」という擁護の声で2つに分かれ、コアなファンほど「まさよしどうしちゃったんだ。大丈夫か」と不安がった。

「曲少なめライブ」を行う
プロセスに欠けていたもの

 批判にも擁護にも正当性はあるのだが、今回の水戸ライブは「やり方がまずかった」の一言に尽きる。観客の「これくらいの曲数は聞けるだろう」というごく自然な期待を、当日会場で唐突に裏切ったのである。

 MCがうまくてかつ長いアーティストには、たとえばaikoやコブクロがいる。彼らの場合は曲もしっかりやるが、MCが延びて計3時間の長尺ステージになろうとも、ファンはむしろ「たくさんMCが聞けて得をした」と喜ぶ。アーティストが提供するものとファンが期待しているものが合致している信頼関係が、そこには築かれている。

 山崎まさよしがMC多め曲少なめのライブを指向すること自体はアーティストの自由なので問題ないが、ファン・観客との信頼関係がない状態で急にそれをやろうとしたこと、さらにはそれを実現するための信頼関係を築こうとした形跡がないことが、不評を招いた主な原因であろう。事前に「水戸のライブはMC多めでやる」などの告知をしておけば、少なくとも会場の観客の当惑は軽減できたはずである。

 であるから、運営による希望者へのチケット払い戻し措置は最低限かつ最大限だが、非常によかったと思う。なお「本人は反省している」との発表が事務所からあり、本ツアー以降の公演はしっかり曲数をやる予定とのことである。