生保業界の主戦場、医療保険はもうかるのか?収益構造を徹底解説

人気があるのは終身型医療保険だが
あえて定期型を発売する理由とは?

 テレビや雑誌で見かける広告、保険代理店の陳列棚に並ぶパンフレット。生命保険業界において、医療保険が販売現場の主力商品になって随分とたつ。さらにこの流れはコロナ禍で一層加速した感がある。主に保険ショップを中心に医療保険を発売する生保各社は、厳しい競争に生き残るため、毎年のように医療保険の商品改定を行う必要に迫られる。

 このように生保各社がしのぎを削る医療保険であるが、そもそももうかる保険商品なのだろうか?いくつかの観点から見ていきたい。

医療保険の保険期間

 医療保険には、保険期間が10年などの一定期間で終わる定期型医療保険と、終身にわたって保障される終身型医療保険がある。もちろん、圧倒的にお客さまに人気があるのは終身型医療保険の方である。将来の病気やケガに備えるという医療保険自体の趣旨に鑑みると、「保険料が変わらず終身にわたる保障が得られる」という安心は魅力的だ。特に海外と比べて日本人はその傾向が強い。

 それでは、そのようなお客さまニーズが高いにもかかわらず、あえて定期型医療保険を発売する生命保険会社のメリットは何か。理由としては、次の3つが挙げられる。

(1)長期間の医療リスク保有を避けられる

 一般的に医療保険における給付金の支払い要件は、“病院への入院”などであるが、死亡リスクと異なり、国の医療保険制度などの社会環境に影響されることが多い。したがって、このような不安定なリスクを長期間保有することは慎重にならざるを得ない。特に、親会社が欧米の保険会社の場合はこの傾向が強くなりがちだ。

 なお、保険期間満了時に、自動更新により一定年齢まで保障を継続可能であるが、更新後の保険料には加齢による保険料上昇に加えて、実績支払率の悪化によるリスク量の増加を反映可能である。2025年度から経済価値ベースのソルベンシー規制が導入予定であるが、それも追い風になると考えられる。

(2)競合商品が少ない

 現在日本の生保市場で販売される医療保険の約9割は終身型であるといわれており、激しい商品開発競争にさらされている。だが、定期型については比較的競合商品が少ないため、ある程度時間的な余裕を持った販売体制の継続が可能である

(3)実験的な商品開発が可能

 終身型の場合、保険期間の途中で特約の中途付加などを行わないと保障内容を変更できない。しかし、定期型の場合は、更新時に最新の保障内容をお客さまに提案することが可能になる。業界に前例のない全く新しい保障でリスク量がつかみにくい場合など、生保各社にとって実験的な商品開発が可能になる。

 上記のように、定期型についてはマーケット上で一定の存在意義はあるものの、総じて保険料単価や全体の販売量は少なくなる。また、逆選択リスクやモラルリスクが高く、筆者の経験で言うと定期型の実績支払率は、同じ保障を提供する終身型と比べて高くなりがちである。

 つまり、結果として定期型は「もうかる保険商品」とは言い難く、あくまでもお客さまに提案する幅広い商品ラインアップの一つとして用意するのが望ましいといえよう。次ページでは終身型医療保険の収益構造について、「三利源別収益」や「保障項目別収益」に分けて論じていきたい。また、生保各社の商品開発担当者が戦々恐々とする点についても触れていこう。