「人前で泣いてしまうのをどうにかしたい…」
そんな人に納得のアドバイスを出すのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
ある女性の告白
泣いてしまった──。
会社で、あんなに大勢の人の前で泣いてしまったのは初めてだったと思う。
自分でもなんで泣いてしまったのかわからないけど、涙が溢れ出てしまって、自分でも止められなくなっていた。
「仕事は大丈夫? 自分が新人の頃を思い出すねぇ。応援してるよ」
そんな上司の声を思い出す。
我ながら本当に恵まれた職場に就職できたと思っている。
職場の上司や同僚はいい人たちが多い。
直属の上司になった人は、ちょっと家族自慢が多めだけど気にならない程度だし、新人の私にもよく話しかけてくれる。
お給料もいいので、働くことへの不満は一切ない。
だけど、自分が思ったよりも仕事ができなかったり、思うように仕事が進まなかったとき、
「最初はみんなできないけど、今のうちからしっかり覚えようね」
「私も入ったばかりの頃はできなかったから、わからないことはどんどん聞いていいよ」
なんて、優しい言葉をかけられると、急に涙が出てしまうようになった。
私に気を使ってくれているのはわかる。
でも、そんな気持ちを感じるたびに、「自分がいかにダメなやつか」を再認識させられている気がして、優しくしてくれているのに泣いてしまうのだ。
涙が勝手に溢れてしまうのには、どうすればいいんだろう?
「メンヘラと思われているに違いない……」
最初の頃はトイレや人目につかないところでひっそり泣くようにしていた。
だけど、完成するまでにすごく時間がかかった書類を見てもらい、改善点を指摘された(まったく怒ってないし教え方も親切だった)ときに、メモをしながら泣いてしまった。
それからは人前でも急に涙が溢れるようになって、ついに上司や同僚が数人いたオフィスでも泣いてしまった。
小さい頃から人前で泣かないようにしていたし、「涙は他人に見せないものだ」と人一倍思っていたから、泣いてしまったことがすごくショックだった。
「きっと上司に、『すぐに泣く新人だな』『面倒だし、情けないな』と思われてるに違いない……」
そう考えると、よけいに自分が許せない気持ちになってしまう。
泣くのを何度も抑えようとした。
でも、泣くのがクセになっているのか、すぐに鼻がツーンとなって、涙が止まらなくなってしまう。
「すみません」「ごめんなさい」
もう何度目かの謝罪の言葉、涙と一緒に勝手に出てくるイヤな言葉。
自分が自分でないようだ……。
こうやって周りに迷惑をかける私は、きっと“メンヘラ”だと思われているに違いない。
人に言えないレベルの悩み
こんなふうになってしまってから、誰かに相談をしようとも思った。
一人暮らしだけど、家族ととても仲がいいし、恋人もいるから相談する相手にも恵まれていると思う。
だけど、相談しようとすると、「心配させてしまうのがイヤだな」という罪悪感や、「職場で泣くなんて非常識だと思われないかな」という羞恥心が出てきてしまう。
いつも「大丈夫な自分」を取り繕ってしまってまともに相談できない。
本当はぜんぜん大丈夫じゃないのに……。
だから、自分なりになんとかする方法について調べようと思った。
『職場で 泣かない方法』
『心 強くするには』
そんな検索ワードでググるのが最近の日課になっている。
インスタを開くと、インフルエンサーたちはとてもキラキラしていた。
「きっと私なんかとはぜんぜん別の世界に住んでる人たちなんだろうな……」
そう思ってしまって、また落ち込む。
でも、彼女たちのようになるにはどうすればいいんだろう、とも思うわけで。私もこんなふうになれるかな、と淡い期待も抱いたりした。
彼女たちの成功体験なんかも参考にするけど、だいたいみんな、
「私も最初はダメダメだったけど、何回も挑戦してうまくいきました!」
「失敗は成功につながる近道だと思って努力したんです」
なんて、失敗しても気持ちが折れないような人たちばかり。
「やっぱり自分とは違うんだなぁ……」
と、余計にイヤな気分になるだけだった。
そうやってネットで調べ続けていたら、「そんな兆候が続くと、うつ病になる」という記事も見つけた。
「甘えてばかりいる人はうつ病になりやすい」という投稿も見てしまって、なんだかとても怖くなった。
そんなふうにネットをダラダラ見ていたら、ある精神科医とのすごい出会いがあったーー。