「“やらされ感”が強い子ほど病みやすくなります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

医者が警告する「“やらされ感”が強い子ほど病みやすくなる」そのワケとは?Photo: Adobe Stock

人生への「満足感」が低下する人

「やらされている感」が強いほど、人間は病みやすくなります。

 近年、子どもたちのストレスとメンタルヘルスの問題が増加しており、若い人々の不安やうつ病などが急激に増えています。
 この背景にはさまざまな要因が考えられますが、「人生への満足感が低下している」という興味深い調査があります。

 その満足感の低下には、「自分の人生をコントロールしている」という感覚の低下が関わっており、子どもが遊ぶ時間が減少していたり、スマートフォンなどのデバイス使用の増加に関連して遊びの範囲が狭まっているのではないかとも考えられています。

「自主性」と「不安・うつ」の関係

 臨床神経心理学者のWilliam R. Stixrud氏は、著書の中で、自主的に行う成功や失敗を通して感じる「自分自身で人生をコントロールしているという感覚」の低さが、不安・うつといったメンタルヘルスと関連していると示しています。

 私たち人間は、自分でやりたいことができているという「自主制」によって行動し、挑戦することで心から満足したり、失敗して悔しいと感じることで感情は大きく変化し、人生を味わい深い達成感のあるものと感じやすくなるのです。
 ですが、そんな「自主制」が奪われて「何かに人生をコントロールされている」と感じながら生活すると、成功しても、失敗しても「自分ではない誰かのおかげ」「誰かのせい」と感じてしまい、無力感や行き詰まりを感じやすくなります。

ネットが与える危険性とは?

 そんな大切な「自分自身で人生をコントロールしているという感覚」ですが、教育などで子どもが自分で考えて遊ぶ時間が少なくなり、スマホやゲームなどで遊ぶ内容が限定されてしまうことで「自己動機付け」ができず、成功への努力の意味を見出せないまま成長してしまい、人生が味気ない、満足できないものと感じやすくなっているのです。
 ここで私はゲームやネットがよくないと言いたいのではありません。これらは便利なツールのひとつですし、それら無しでは社会で生きていくことは困難になっています。

 しかし、そんな「便利さ」に振り回されると、私たちの人生は味気のない、満足感のないものになってしまう恐れがあることは考えておく必要があるでしょう。
 ゲームやネットは短期的な快感を産んでくれますが、そんな刺激にもいずれは脳が飽きていき、達成感を感じ続けることは難しくなっていくのです。

どんな経験が必要なのか

 では、「自分自身で人生をコントロールしているという感覚」を身につけていくために、何が必要なのでしょうか。
 それは、「能動的な失敗」です。

 私たちは子どものころからたくさんの失敗を繰り返してきました。

・良かれと思ったオリジナリティ溢れるレシピの料理を試してみて怒られる
・いるのかいらないのかわからないオモチャを親にねだる
・高いところや危険なところにあえて登る

 このように、「失敗するかも…」とちょっとした不安をスパイスにして、あえて不便で成功するかわからないような、非現実的な「遊び」にチャレンジしてみることで、「人生をコントロールする感覚」に触れることができます

 あなたが自律して動機付けができる子どもを育てるためには、十分な休息、適切な睡眠のほかに「自由な遊びの時間を提供すること」が重要になります。
 これにより、子どもたちは自分の人生を自分でコントロールし、メンタルヘルスを保つ、”自己決定理論”に基づく「自律性」「有能性」「関係性」という、3つの基本的な欲求を満たしながら成長することができるのです。

参考文献:『セルフドリブン・チャイルド』(NTT出版)

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。の著者・精神科医いっちー氏による書き下ろし記事です)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。